スターリング・アナザー・ヒューマンズ
白白 椎
1. 嫌な出会い
ジョアンが目覚めてからまず最初に考えたことは、「ここはどこだろうか」というものであった。確か自分は、街で暴れ回る機械獣に轢き殺されたはずである。それなのに、体には痛みも傷もない。真っ白な手術着のようなものを一枚だけ身につけて、真っ白な部屋の中ただ一人。
まるで手術台のようなベッドから身を起こし、ジョアンはよろよろと立ち上がった。痛みはない。痛みはないのだが、違和感が凄まじい。地面を踏み締める度、まるで宙に浮いているかのような錯覚を受けるのだ。いつもより何倍も遅い速度で壁まで辿り着いたジョアンは、そのまま壁を伝うようにして前に進む。やがて部屋の端に置いてある大きな鏡の前までやってきたジョアンは、自分の姿を見て膝から崩れ落ちた。
金髪は白く染まり、ヘーゼルの目は星空に変わり、左目から首にかけて黒いヒビが入っている。形は人間であるのに、もはや人間ではなくなった自分の姿を見て、ジョアンは呼吸が細くなっていく。
(な、なんで。どうして。僕に一体何があった? こんな、化け物みたいな……)
激しい眩暈と吐き気を覚えたジョアンが遂に床に蹲った時、部屋の扉が音もなく開いた。その先には、長い黄金色の髪を揺らす男が立っていた。
「お、やっと起きたか。いやはや、想像の三倍以上目を覚まさなからてっきり手術ミスでもしたのかと思ってそりゃもう心配してたんだからな。自分自身を! あー、よかった。そりゃ僕が失敗するなんて有り得ないし当然だな全く。無駄な心配をしたじゃないか」
「……」
「おいおい、ダンマリは止めてくれよ。僕は無視されることが何よりも嫌いなんだ。第一、命の恩人に対して何だそのたい……」
「……チェルカトーレさん」
「おい! 僕が喋っているのに途中で口を挟むんじゃない!」
「僕に何があったんですか」
「……そこは『僕に何をしたんですか』じゃないのか?」
本当に君はお人好しの馬鹿だなぁ、と笑ったチェルカトーレを見て、ジョアンは頭痛が酷くなるのを感じた。
チェルカトーレの目元には星雲のような靄が掛かっていて、顔の上部を読み取ることが出来ない。それなのに口元はコロコロと表情を変え、声色からは喜怒哀楽全てが読み取れる。そのアンバランスさが恐ろしく思えたジョアンは、思わず一歩後ずさってしまった。
そんなジョアンの様子を見て、チェルカトーレは思わずといったように吹き出した。
「ククッ、ハハハハッ! おいおい青年、それは面白すぎるぞ! 手遅れになってから、ようやく僕の恐ろしさを理解するなんて!」
耐えきれないとばかりに腹を抱えて笑い始めたチェルカトーレに対し、ジョアンは何も言うことが出来なかった。やがて一通り笑い終わった後、チェルカトーレは涙を拭うような動作をしてから口を開いた。
「ハッピーバースデイ、レジストラトーレ。君の誕生を心から歓迎しよう」
そう言って手を差し伸べてきたチェルカトーレを見て、ジョアン__改めレジストラトーレは、ただ茫然と相手の顔を見つめていた。
始まりは現在から二ヶ月ほど前に遡る。
ニュースライターとして、人身売買を行う闇業者に潜入調査を行なっていたジョアンは、隠れるために飛び乗ったトラックに閉じ込められ、誰にも気付かれないまま約500kmをトラックの荷台で揺られ続けていた。
あ、そろそろ死ぬかも。というところでようやくトラックの扉が開き、間一髪助かったかと思ったジョアンだったが、開けた相手は普通に闇業者だったので何も助かっていないことに気付いてしまった。結果としてカメラは叩き壊され、ジョアンは縄で縛り上げられて転がされる羽目になったのである。
「お前、もっとちゃんと確認しとけよ!」
「人間が忍び込んでるだなんて思うわけないだろ普通!」
ギャアギャアと言い争う二人を見ながら、ジョアンは自分の運の悪さに泣きそうになった。昔から悪運だけは強かったのだ。そもそもニュースライターになった経緯も、事件やら事故やらに巻き込まれる率が高かったから、それならいっそ記者をやればネタも入り放題なのでは? と思ったことがきっかけだったのだ。こうなる未来が分かっていたのなら、こんな仕事絶対に選ばなかっただろうけれど。
「チッ、こいつどうするよ」
「普通に殺せば良いだろ。人間の内臓は高く売れるんだぜ。俺らのポケットマネーに、ってな」
「お、良いなそれ。いい小遣い稼ぎになるじゃねぇか」
「むー!」
口も塞がれているせいで上手く喋れないが、必死に抵抗を試みるジョアン。だがしかし悲しいかな、彼は非力な人間なのだ。そんな彼が屈強な〝人外〟に敵うはずもなく、ジョアンはあっさりと首を掴まれてしまった。
このままでは本当に殺されてしまう。どうにかしてこの場から逃げ出さなければ。
焦るジョアンが体をばたつかせていると、そこで突然地面が大きく揺れた。激しい轟音と共に、揺れは段々と酷くなる。
「おっ、おい。何だこの揺れ!?」
「この音……ま、まさか今日がドッグランなんじゃねぇだろうな」
「はぁ!? 嘘だろ。……おい、ずらかるぞ。商売より命優先だ!」
「むぅ!?」
慌てた様子で走り去っていく二人の背中を睨みつけながら、ジョアンは何とかして拘束から逃れようと試み続けた。そしてようやく縄が解けた時にはもう、二人は遥か遠くまで行ってしまっていた。
これ幸いとばかりに立ち上がって駆け出そうとした瞬間、再び大きな衝撃が走った。今度は先程よりも大きな揺れだ。
「……っ!……!!」
あまりの恐怖に言葉にならない叫び声を上げたジョアンは、揺れに耐えきれず尻餅をついた。その拍子に何かが頭に当たったが、それを気にしている余裕など全く無い。早く、一刻も早くここから離れなくては。
頭の中はそれでいっぱいで、揺れがマシになったのを合図に駆け出そうとした次の瞬間、ジョアンは後ろから伸びてきた手にパーカーのフードを掴まれ宙に浮かんだ。
「ぐえっっ」
「なぁ君、今暇かい?」
「えっ」
振り返った先に居たのは、金髪紫眼の男であった。美しい男だと、素直にそう思った。容姿も服装も、どちらにも高級感が漂っていて、自分と生きている次元が違う人なのだろうと本能が感じ取る。そんな男は今、ジョアンのフードを引っ張り上げながら、その顔を覗き込んできている。平均身長はあるはずのジョアンの足が浮くレベルなのだから、かなりの高身長だ。細身なのにジョアンを丸々持ち上げるとは、一体どんな筋力をしているのだろうか。
思わず呆然としてしまったジョアンだったが、ハッとして自分の置かれている状況を思い出した。まずい、これは非常にマズイ。揺れも大きくなりつつあるのに、こんな場所にいるようでは何か被害に巻き込まれるかもしれないじゃないか。男に逃げようと伝えたいが、首が閉まっている状況では上手く声を出すことが出来ない。苦しさに喘いでいると、男が不思議そうな声を出した。
「あれ、聞こえていないのかな。おかしいな……」
「……!」
「返事がないのは良くないよ。僕、寂しいのと薄い反応が大嫌いなんだよね。話しかけられているんだったら返事くらいしたらどうだい」
「……!!」
「まだ無視を続けるつもりか!? 最近の子供はこれだから……」
息苦しさから真っ赤になっていたジョアンの顔が段々と真っ青になっていくのを見て、ようやく男はフードを掴んでいた手を離した。途端に空気が流れ込み、ジョアンは咳き込んだ。
「ゲホッ、ゴホ、ケホッ、はー、はー、はー……」
「息ができないだけでそのザマかい。全く、下等生物は随分と脆く作られているんだな」
「ゲホッ……あ、あの! 早くここから離れないと危ないですよ!」
「ん? 何故だい」
「揺れが、近づいて来てます。ここじゃ崩れた瓦礫に踏み潰される確率が高い、です」
「瓦礫くらい痛くもないだろう」
「は、はぁ!?」
ジョアンは信じられないという表情で目の前の男を見た。まさかこの人は、自分が死ぬことを理解していないのか。それとも、自分はそういう生き物だと思っているのだろうか。もし後者だと言うのなら、あまりにも哀れだ。
ジョアンが困惑していると、男は突然ジョアンの腕を掴み、そのまま歩き出した。慌てて引き留めようとするが、男の力は強くて振り解くことが出来ない。
「ちょ、ちょっと離してください!」
「あー、うるさいうるさい。僕は暇じゃないんだよ。君のせいで無駄な時間を食ってしまった」
「だったら放っとけば良かったでしょうが!」
「君に手伝って欲しいことがあるんだよ!」
「えっ」
「ここからなら……見えるな」
ジョアンを引き摺りながら少し歩いたところで立ち止まった男は、パチンと指を鳴らした。その瞬間、一瞬の浮遊感と共に景色が変わる。
「うわっ」
そこはビルの屋上だった。いつの間に移動していたのだろう。驚きに目を見開くジョアンに向かって、男はにっこりと笑いかけた。
「さて、早速だけど本題に入ろうか」
「……何ですか」
「あそこに大きな大きな機械獣が見えるだろう。アレは僕のペットのジョセフィーヌだ」
「はっ、はぁ!?」
「良いリアクションをありがとう」
そう言ってから男は高らかに笑った。しかしすぐに真顔に戻ると、機械獣を指差しながらジョアンにこう告げる。
「僕はジョセフィーヌの散歩をしてたんだけどね、うっかりリードを手放してしまったのさ。何故だと思う?」
「分かんないです……」
「いつもは大人しいジョセフィーヌが急に何かに興味を示して暴れたからさ! しっかり躾もしているはずなのに、こんなこと有り得ない。有り得ないが、起こってしまったなら仕方がない。原因を探して僕は上手いことジョセフィーヌを落ち着かさせないといけなくなったわけなんだが……」
男は一度そこで言葉を切ると、ジョアンの方を見ながらこう続けた。
「暴走の原因は君だよ、青年。あの子は君に反応したんだ」
「えっ、何で! きっと勘違いですよ!」
「僕もそう思ったさ! だが実際、ジョセフィーヌは君の乗ったトラックに酷くそわつき、君がトラックから出てきた瞬間暴走を始めた。これはもう、そうとしか考えられないだろう?」
「そんなこと言われても、俺何もしてませんよ!」
「知るかそんなの! 君の責任なんだから君がどうにかしたまえ!」
「暴論!」
ジョアンは頭を抱えそうになった。自分はただ巻き込まれただけ。それでどうして責任を取らされなくてはならないのか。理不尽にも程がある。反論しようと口を開きかけたジョアンだったが、男がまたもや指を鳴らすのを見て口を閉じた。すると今度は景色が変わり、ジョアンは再び違うビルの上に立っていた。
「あの、さっきから一体何をして……」
「面倒臭い奴らが来やがった……」
「はい?」
「早く行って、あの子を何とかしてくれたまえ。ジョセフィーヌが壊れたら僕は困るんだ。……ああ、それと」
男は不機嫌そうに眉を寄せながら、ジョアンに背を向けた。そして首だけを振り返らせながら、一言。
「失敗したら殺す」
「ひぃっ!?」
ジョアンが悲鳴を上げるのと同時に、男は再び指を鳴らした。次にジョアンが飛ばされた場所は、街のメインストリートで。
「……え」
轟音、轟音、轟音。目の前には、あまりにも巨大な鉄屑の塊のようなものがいて。その足元では人々が逃げ惑っている。鉄屑が一歩進む度に地面が揺れているような気がするのは、決して気のせいではないはずだ。
呆然とするジョアンの耳に、男の声が届く。
《それがジョセフィーヌだ。しっかりそこで止まらせておいてくれ。暫くしたら迎えにいく》
「えっっ!? い、いやいやいや、無理でしょどう考えても!」
《全力で頑張れよ青年〜》
「クソ野郎!!」
ジョアンは泣きたくなった。
目の前にいるのはどう見ても、どう聞いても、どう感じてみても、巨大鉄屑の化け物である。あれを自分が止めろなんて、無茶も良いところだ。
だがしかし、ここで諦めてしまう訳にはいかない。何故なら、先ほどの男の言葉があるからだ。
___失敗したら殺す。
「こんの鬼畜丸投げ馬鹿野郎〜!!」
ジョアンは必死になってジョセフィーヌを宥めた。それはもう、必死に。
その頃、男はというと。
ビルの上から、ジョセフィーヌとジョアンを見物していた。楽しそうな表情を浮かべながら、彼は呟く。
「おーおー、ジョセフィーヌも随分ノリノリだなぁ。さて、あの青年はどこまで耐えられるか……」
そう言いながら男は首を横に傾ける。その瞬間、男の頭の横スレスレを弾丸が通過していった。
「……君達は暇なのかい?」
「それはこっちのセリフだ、理の破壊師(バランスブレイカー)」
「その名前やめてくれないかなぁ!?」
男が振り返った先には、銃を構えた黒髪の男が立っていた。彼の後ろには三人の男女が控えており、それぞれ敵意を剥き出しにしている。
「今日は何を企んでいる。街の破壊には飽きたんじゃなかったのか」
「別に壊そうと思って壊してるわけじゃないさ。今日はたまたまジョセフィーヌが遊びたがっているだけ。つまりは事故だ事故!」
「事故の割には随分と楽しそうだがな」
「……そりゃまぁ、ね」
男は目を細め、薄く笑う。次の瞬間、彼を包み込むようにしてキラキラと輝く靄が現れた。やがてそれは男の目元にピッタリ収まると、星雲の煌めきを示す。
「予想外のアクシデントは大好物だ。それに今日は二つも収穫があるしな!」
「悪趣味極まりないな。……ベルラ、リリッカ。援護を頼む」
「「了解」」
二人の返事を聞いた黒髪の男は、懐から小さな機械を取り出した。それを素早く操作しながら、口を開く。
「今日で駆除させてもらうぞ、チェルカトーレ」
「やってみろよ、グリフィン」
グリフィンと呼ばれた男はニヤリと笑いながら、手に持つ機械を宙に放った。機械は光を放ちながら形を変え、美しい装飾が施された槍になる。
それを見たチェルカトーレは口元を大きく歪めた後、再び笑みを宿した。
「……人の失敗作をよくもまぁ嬉々として振り回せるな」
「プライドの高いお前がわざわざ失敗作と自称するほどの品物だ。使わない手はない」
「性悪」
「お前こそ」
二人の間で火花が散った。
そしてジョアンに視点が戻る。
興奮しているかのように大通りを転げ回るジョセフィーヌに対して、ジョアンは必死に声を張り上げていた。
「ジョセフィーヌ! ストップ、ストップー! 良い子だからじっとしてー!!」
だがそんな言葉が通じるはずもなく、ジョセフィーヌは更に速度を上げて暴れ回っている。その度にコンクリートの地面は崩壊を進め、道の周りに立つ建物がバラバラと崩れ落ちていく。ジョアンは泣きたくなった。
「Gaaaa!」
「待って! 止まって! 落ち着いてー!!」
ジョセフィーヌが吠え始め、ジョアンは更に焦りを募らせる。このままでは本当にジョセフィーヌを止められないかもしれない。そんな考えが頭を過ったその時だった。頭上に黒い影が被さってきた。ジョアンは持ちうる限りの全力で、大きく横に飛び退いた。
コンクリートが崩れる音と共に、刀を持った男が落ちてきた。刀の刀身は下を抜いており、もし避けていなければ頭から真っ二つになっていただろう。
「な、ななななッッっ!?」
「チッ、避けたか」
男は舌打ちをしながら立ち上がり、ジョアンの方へと視線を向けた。男は濡羽色の髪を持った、日系の男であった。年齢は二十代前半といったところだろうか。
「貴様がチェルカトーレの仲間だな」
「だっ、誰ですか!?」
「しらばっくれるな。お前がチェルカトーレと行動していたことはもう既に確認済みだ」
「えっ、あの人の名前チェルカトーレなんですか!?」
ジョアンが思わず叫ぶと、男は眉間にシワを寄せた。それと同時に男の背後で爆発が起こり、ビルが倒壊する。ジョアンは冷や汗を流しながら、叫んだ。
「ジョ、ジョセフィーヌーー!!」
爆発の原因はジョセフィーヌだった。唸り声をあげ、ジョアンのことをその巨体で睨みつけている。正確に言えばジョセフィーヌが睨んでいるのは男の方なのだが、ジョアンがそんなことに気付けるわけもない。震え上がったジョアンは両手を上げて「勘弁してー!」と叫んでいた。
「grrrrrr……」
「鉄屑の駄犬が……。その姿、ゴミに戻してやろう」
「Grgaaaaaaaa!」
ジョセフィーヌが大きく吠えると、彼女の身体に変化が起きた。
手足の関節部分から蒸気のような煙が上がり、全身に纏わりついていた瓦礫の破片がボロボロと地面に落ちる。また、首元の歯車が激しく回転し、耳障りな金属音を響かせた。そして最後に、ジョセフィーヌの目元に埋め込まれた宝石が強い輝きを放った。
「え、えぇ!?」
「吠え癖の治らないクソ犬……!」
呆然とするジョアンを他所に、男は刀を構えた。
「さぁ、本物の鉄屑に成り果てろ」
男の姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはジョセフィーヌの目の前に姿を現した。彼はそのまま勢いよく刀を振り下ろし、ジョセフィーヌの足を斬りつける。だがしかし、ジョセフィーヌは痛みを感じていないのか、全く怯む様子がない。それどころか男の方を向き直り、その大きな口を開けた。
「ちょっ、危な……!」
ジョアンが慌てて逃げようとするも、一歩遅かった。ジョセフィーヌの口から放たれたのは巨大な炎の塊であり、それが一直線に飛んでいく。熱波はジョアンにまで届き、彼は顔を青くさせた。
「うわぁあああ!! 死ぬぅーー!!」
「……ふん」
男は涼しい顔のまま、迫り来る炎に向かって刀を振るった。すると不思議なことが起こった。男の振るった刃先と炎の間に薄い膜のようなものが現れ、やがてそれはドーム状になってジョセフィーヌの炎を受け止めたのだ。
「……へ?」
ジョアンは唖然として立ち尽くしていた。男はというと、相変わらず表情を変えないままジョセフィーヌの攻撃を防いでいる。
(な、何なんだ本当。全てにおいて何も分からない……!)
困惑しながらも、ジョアンは二人の戦いを見つめていた。刀と炎がぶつかり合い、激しい閃光と爆風が巻き起こる。やがてそれはジョセフィーヌの放った最後の一撃によって掻き消された。砂埃が舞う中、男が立っているのが見える。
ジョセフィーヌの口元からはプスプスと音が鳴っていた。どうやら今の攻撃で機械部分が壊れてしまったらしい。
「ggggg……Giiii……」
ジョセフィーヌの声が徐々に小さくなっていく。
「と、止まった〜」
ジョアンは大きく息を吐きながら、その場に座り込んだ。それから、ふと男__チェルカトーレの言葉を思い出す。
《ジョセフィーヌが壊れたら困るんだ》
《失敗したら殺す》
(……アレ、これかなりまずいのでは?)
ジョアンの中で嫌な予感が膨らんでいき、同時に冷や汗が流れ出す。そんな彼の心情など知る由もなく、男はゆっくりとジョセフィーヌの元へと歩み寄っていった。
「これで終わりだ」
「待てーー!!」
「なっ!?」
男が刀を振り上げた瞬間、ジョアンは後ろから男に飛び掛かった。まさかジョアンが反撃してくるとは予想していなかったのか、男は驚きのあまり目を大きく見開いている。
「邪魔をするな!」
「ダメです! ジョセフィーヌを殺すのだけは絶対に許さない!!」
「じゃあまず貴様から殺してやる!」
「待ってごめんなさい許して!!」
男は再び刀を構え直し、ジョアンの首筋に向けて振り下ろす。ジョアンは情けない悲鳴を上げながら、それを必死で避け続けた。
ジョアンが死ぬまで後20分____
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