Alleluia MOEluia BLuia!〜イテ・ミサ・エスト2
PAULA0125
第1週 いにしへのあい
少年は移民である。ドイツから逃れ、イタリアに引っ越してきたばかりだった。世界がどうなっているのか、そんなことは全くわからない。ただ、ドイツにいると酷い目に遭う、ということしか分からなかった。
友達もいないその土地で、少年は、多くの身なりの整っていない人が、やたらと献金をせっせとしている事に気づいた。はて、確かに教会で、「自分が出来る最高の贈り物をする」という例え話で、「やもめの献金」というのがあったが、現代でこの風習を守っているとは。曲がりなりにもバチカン市国を頂くイタリア、ということだろうか。
初めこそ、移民でお金も身よりもない一家に、何を求める訳でもなかった人々であったが、そのうち、
「献金はしないの?」
と、しつこく言われるようになった。初めのうちは、比較的裕福な信者からだったが、最近は一目見て乞食と分かるような人まで、「献金」を、迫ってくる。両親は、
「あんな金の亡者の教会なんか願い下げだ!」
と、言っていたが、少年はやたらとニコニコと、慈悲深く「献金」を迫ってくることに、寧ろ興味を持った。
本当の金食い虫なら、もっと重圧を掛けてきて、高圧的になるだろう。だが、彼らはまるで、「こうすれば助かるよ」と言うかのように、優しく語りかけてくる。
もしかしたら、自分が知らない意味があるかもしれない。そう思った少年は、思い切って神父に聞いてみることにした。
「神父様。」
「ああ、ジョバンニか。どうした? なんか飲む?」
茶髪の飄々とした神父は、まだ年若く、寧ろこの年で神学校をどうして出られたのか不思議である。
「この教会では、献金が出来ないといちゃいけないんでしょうか?」
「???」
「いつも、「献金しなさい」って言われるんです…。」
「…ああ、なるほど。」
神父は合点がいったように頷き、献金袋を持ってきた。はて、昨日は信者全員が献金していたのに、随分軽そうだ。
「献金してごらん。」
「でも、ぼく、お金ありません…。」
「大丈夫、手を入れてご覧。」
言われるがままに、手を入れると、カチャ、と何枚かのコインに触れた。
「そのまま、手を出してご覧。」
盗みじゃないのかな、と、思いつつ手を引き抜いて見たけれど、まだ単位を覚えきれていないイタリアのコインが何枚か手に入った。
「それがお前への献金だ。安心して持っていって、食べ物を買いなさい。」
「え? でもこれは…。」
「この教会では、余裕のある人が、誰かのその日のパン代を献金するんだよ。だから皆、お前のことを心配して、献金を勧めるんだ。」
「…いいんですか?」
「『我等の日毎の糧を、今日も与え給え』、だ。食事は神と繋がる神聖な行為だ。安心して食べなさい。」
「…ちなみに、今1番安いのなんですか?」
「ああ、フェリシアのところの引き売りが1番安いぞ。丁度今日の夕方来る。」
「あ、ありがとうございます! この『献金』は、必ずやお返しします!」
「金なんざ要らねえよ。美味いもん食って、人生楽しみな。」
神父はそう言って、引き売りの場所を教えてくれた。両親は、こんな沢山どうしたのか、と言うので、「親切にしたらくれた」と誤魔化した。
それから、イタリアは都市開発が始まり、少年も働き始めた。気がつくと、麦畑は無くなり、あの教会は更地になっていた。
今でも、リンゴを買う度に思う。
あの時、自分に献金を迫った神父は、どこに行ったのか、その名前は一体なんだったのかを。
―――現代イタリアに伝わる、ある「献金」システムの伝承。現存するかは不明。
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