第二百十話 その先にあるもの
「そんな、そんなこと、あるわけが……。」
オーディンは過去の姿を思い起こす。
国を奪われ、命からがらで逃げ出し、孤独の中で必死に生きていた時間を。
そして、そこに一筋の光を差し込んでくれたアトリの存在を。
感情をボロボロに壊され、負の感情しか持っていなかったオーディンに、希望を持たせてくれたのは他ならない、アトリであった。
アトリと長い間その隣を歩いていた、アトリが目指す世界、未来を考えた行いを彼は心から尊敬していた。
しかし、心のどこかでまだ信頼しきれない部分があった。
また、いつか自分が裏切られ孤独になってしまうのでは無いかと。
そしてアトリの口から告げられた、自分の死が近いこと。
その知らせは、オーディンに再び恐怖を取り憑かせるには十分すぎるものであった。
その状態で告げられた一言。
「オーディン、お前に頼みたいことがある。私の、最後の願いだ。」
「なんでございますか、アトリ。」
「私の、ミーミルのことを私の時のように、隣で支えてくれないか。あいつはまだ若い、私以上に間違った選択をするかもしれない、頼む、力を貸してくれ。」
「……はい。」
その言葉は、混乱していたオーディンには信頼の言葉ではなく、裏切りの言葉として聞こえてしまったのであった。
「嘘だ、アトリは私が信頼できないから、王にしなかったんだ!私は、私は間違ってなどいない!」
「いつまで自分に嘘をつき続けるつもりだ!!そんなことをしても、辛いのはお前自信だろ!」
「っ!!それはーー。」
「もう許してやらないか、お前が責めてる過去の自分を、間違いは誰でも犯してしまうんだ。けど、問題はそこじゃ無い!次に繋げる方法を考えるのが、俺たち未来を生きていく存在に与えられた使命なんだ!過去に囚われるな!!」
ポタッ、ポタッ。
オーディンから涙が滴り落ちる。
それは、意図して出てきたものでは無い、感情を全て消し去ったはずの彼の体から本能的に流れ出たものであった。
「辛い気持ちを隠し続ける我慢なんてやめちまえよ!もっと頼れよ。お前を受け入れてやる、俺は、俺たちは!」
「わ、私は、私は……。」
スサッ。
スノウはオーディンに向け手を差し伸べる。
その姿は、オーディン達を受け入れたアトリのようであった。
「アトリ、いや、白狼。私は……。」
「間違った選択はこれから清算していけばいい。罪を償って、それから未来に歩き始めればいいんだ。まだ戻って来れる。」
「白狼……スノウ・アクセプト……。」
スサーッ。
オーディンも手を伸ばす。
「おう。」
スタッ、スタッ、スタッ。
スノウはオーディンに近寄る。
その距離、あと50センチ。
しかし、
「うぐっ、ごほっ、ごほっ。」
「どうした!オーディン!」
(離れろ!スノウ!)
テュールの声がスノウの頭に響き渡る。
そして、
バゴーンッ!
オーディンの闇の力がこれまで以上に膨れ上がる。
「うわぁぁ!!」
「兄さん!」
ガシッ!
吹き飛ばされたスノウをヒメノがキャッチする。
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ。オーディン、何が起きた?」
(あれは、闇の力の暴走だ。)
(暴走?なんでだよ、あいつは元々光魔法使いのはずだろ?なんで闇の力が暴走なんて!)
シュイーンッ!シュイーンッ!
オーディンはさらにドス黒い闇の力を宿していく。
「お兄!あれは危険だよ、このままじゃこの建物どころかこの町全てを消しかねない!」
「だけど!あいつは、分かり合おうとしてくれた!なんでこんなことに!」
(メギンギョルズだ。もともとメギンギョルズはオーディンが生み出した装具だ、あの闇の力をどう入れ込んだのかは分からねえが、その時に自分も闇に蝕まれたんだろう。)
(嘘だろ、じゃああいつは、オーディンはーー。)
(もうあいつの意識はあそこには無い。あれは、オーディンの体を操る闇の存在、さっきまでの存在とは全く違う。)
「うがぁぁ!!」
シューンッ!シューンッ!
複数の闇のビームが建物を破壊していく。
「どうにかして止めないと、このままじゃあたし達だって危険だよ!」
「スノウ!覚悟を決めなくちゃいけない、僕たちには託された命がたくさんあるんだ!成すべきことを成す時が来たんだ。」
「オーディンの命も俺たちと同じ命だ!なのに、なんで、なんで……。」
ギリッ。
スノウの拳から血が滲み出る。
「うごぉぉぁ!!」
闇のオーディンの怒号が響き渡る。
気のせいであろうか、その声は助けを求める悲鳴のように聞こえた。
「オーディン……、やるぞ、お前ら。」
「先輩……。」
「俺たちの最後の任務だ、ギムレーを人間の手に取り戻して世界を守る!そして、俺たちは成り上がる、最強の戦士として、この世界を守る存在に!」
「了解!」
チャキンッ!
全員が抜刀する。
「うがぁぁ!!」
「オーディン、待ってろ、すぐ楽にしてやるからな。ホープのラストミッション、スタートだ!」
ズザッ!
オーディンを倒すべく、六人は己の信念を胸に突き進んだ。
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