第二百二話 神の記憶

スノウ達の感覚はとある王国を上から眺める視点に切り替わっていた。


「ここは?ギムレーじゃねえのは確かだな。」


辺りには多くの家々や、農場、川、そこで作物を育て、魚を釣り、生活を営む人のような姿が。


自然豊かで、平和な国の象徴と言っても過言ではない風景。


(そうだ、ここは俺達が元々いた世界、名前は。)

「ヴァルハラ!?セラ達が今いるお城の名前だよね!?あれって、世界の名前だったんだ。」

(そうよ、セラ。そして、あたしたちが暮らしてたヴァルハラは一日にして、消えてしまった。)

「消えた?どういうことだい?」


ヒュイーンッ!!

ホープの見ている情景が急に変わる。


「次はなんだ!?」

「先輩!見てください、先ほどまでの町が……。」


ボォォ!

ガゴーンッ!ガゴーンッ!

先ほどまでの平和な風景とは裏腹に、辺りから火が上がり家々は倒壊、血を流し倒れゆく町民の姿が。





その姿は、まさしくヘルクリスマスと同じものであった。





そして、それを襲っているのは黒いモヤモヤがかかっている、人のように二足歩行する何か。

手には斧や、槍を持っている。



「なんですか、あれ……。」

(ヒメノ、私たちにもわからないの、けど、奴らの侵攻によってヴァルハラは滅びた。)


二足歩行する何かは、辺りのもの全てを破壊し尽くす。

あるものは、斧のようなものを振り回し、

あるものは魔法のようなもので家々を燃やす。


地獄絵図であることは言うまでもない。



「そうだ!ヴァール達は!?どこにいるの?」

(あたしたちは、お城で最後の砦として防戦をしていたの。)


ヒュイーンッ!!

再度情景が変わる。



次は城の中。


そこには、黒いモヤモヤのかかった化け物と戦う生き物が。


白い狼に、黒い狼、紫の鷹と赤い虎、緑の鮫とその真ん中にはオーディンの姿が。



「あれって、戦神の皆さんとオーディン!?」

(そうやで、ユキナ。うちらも何があったかわからないまま、城まで侵入されてしまったんや。)

「けど、戦神のみんなはあたし達の知る中でもとても強いじゃん!それなのに、こんなに劣性なんて……。」

(ワシらも予想外じゃった。外にいた同胞は、奴らにやられてしまった、残ったのはワシら含め20名の戦神とオーディンのみ。)


ガギーンッ!ガギーンッ!

目の前のテュール達は黒い化物に応戦する。


爪を使い、牙を使い、なんとか凌いでいると言うのが正しいだろう。


しかし、押されているのには変わりない。



「ん?待ってくれ、バルドルや五神の姿が見えない。彼らはどこにいるんだい?」

(それは……バルドルはもうすでに殺されている。五神は、どうなったのかも知らないんだ。)


テュールが寂しげにこぼす。


「どういうことですか!?バルドルと五神は一緒にギムレーに来たんじゃないんですか?」

(違うのよ、バルドルは最前線で化け物の侵攻を食い止めていた。けど、途中から連絡が取れなくなって、バルドルの部下から知らせを受けて……。)

「そんな……、五神は?あたし達が戦った五神はなんなの?」

(あれは、オーディンが作り出した存在。オーディンの頭の中にある五神を、自分の力の一部を与えると共に作り出したんじゃ。似てはいるが、本物ではないんじゃ。)


グラニの言葉に全員言葉を詰まらす。



そして、


ピカーンッ!

シュンッ!

途端にオーディンが光を放ったかと思うと、辺りを大きな光が包み次の瞬間にはそこからオーディンを含めた戦神は姿を消していた。


「消えた?どこにいったんだ?」

(今の魔法は、時空移動ワープ。オーディンが持ってた杖で一度だけ使えるものだ。そして、たどり着いたのが……。)

「セラ達の世界、ギムレーだったんだね。」

(そう。そこであたし達は悔やんでいた、たくさんの仲間を失って、国も失った。……でも、そんなあたし達にも手を差し伸べてくれる人がいた。)

「アトリ様、ということだね。」


シューンッ。

映し出された情景が元に戻り、スノウ達は元のヴァルハラ城に戻る。


「これが、オーディンと戦神のたどってきた過去か。……なんで言えばいいんだろう、ただ、苦しいな。」

「うん、セラ達はただこの世界を取り戻すことだけを考えてた。けど、やり方はどうであれオーディンにも理由があった。」


シーンッ。

ホープの中に静寂が訪れる。




が、


その空気をスノウが砕く。



「決めたぜ、俺は!」

「兄さん?」

「ここで俺らだけで考えても意味がねえ、まずはオーディンのところに行くぞ。あいつを許すかどうかなんて、俺たちだけじゃ決めれない。だから、ギムレーの人たちの総意で決めればいい!!」

「スノウ……でも、オーディンがそう素直に従うだろうか。」


シュイーンッ。

テュールとヴァールの声が全員の頭に響く。


(その時は、迷わずオーディンを討ってくれ。)

(この世界はあなた達人間のもの、あたし達はそれに従うわ。)


キリッ。

六人の顔つきが変わる。


そう、覚悟を決めた顔だ。


「分かった。何が最善かは分からねえ、けどやることは一つ。いくぞ、この戦いを、終わらせに!」

「おぉー!!」


ズザッ!

ホープはオーディンのいる場所に向け歩き始めた。



人と神の最後の戦いが始まろうとしていた。

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