第百九十七話 騎士の言葉
「さあ、始めようか。リーンベル隊長、俺に力を見せてくれ!」
「あなたは、デュポンさん、なんですよね……なんで!」
「俺はデュポンでありデュポンではない、その理由がお前にはわかるだろ!」
シュンッ!
デュポンは剣を構えセドリックに迫る。
「くっ、分かってしまいますよ。……オーディン!あんたってやつは!」
ガギーンッ!
二人の剣が火花を散らす。
「俺を倒すことが、今のお前の任務だ。全力で来いよ、じゃないとホープの一人が欠けちまうぞ!」
ガゴーンッ!
力任せの一撃がセドリックを押し返す。
(デュポンさんはあの時僕が……、そして目の前にいるのはデュポンさんの記憶を入れ込んだ別の存在に違いない。これが、運命なのか。)
ギリッ。
セドリックの歯に力がこもる。
「あなたと二度剣を構えることになるなんて、辛い現実です。
グルンッ!
ジャギンッ!ピシャッ。
回転斬りがデュポンの腕に傷をつける。
「さすがヴァルキュリア隊の隊長、そしてホープの一員。そうだ、それでいい!お前の成長を感じられるとは、嬉しいな!」
「デュポンさん、あなたはオーディンによって戦わされてるんですよね。」
「もう気付くか、さすがリーンベル隊長。そう、俺のこの体は俺のものではない。いわば、人形みたいなもんだ。」
「やはり、デュポンさん本人は僕がブレイザブリクで……。」
セドリックの頭の中に、闇に堕ちて暴走するデュポンの姿が。
そして、メギンギョルズに命を削られ倒れる姿が。
セドリックに全てを教えてくれたのは、デュポンであった。
そんな彼を手にかけることになった現実。
「そうだ、俺はもうお前が知ってるその時に死んでいる。けどな、お前は間違えてないぞ。」
「どういうことです?何であなたがそんなことを。」
「俺は、謝りたかったんだ。俺が過ちを犯したからお前にたくさんの苦労をかけた。」
シュンッ!
再度スピードに乗ってセドリックに迫る。
「僕はあなたに死を与えた存在。それなのに、なぜ僕に優しい言葉をかけるのですか!」
「今の俺はほんの少しだけ、まだデュポンとして動ける。その時間があるうちに、お前に伝えられることは伝えたいんだ。」
ガギーンッ!ガギーンッ!
二人の剣はぶつかり合うが、激しさは感じられない。
それはなぜか。
「俺はこの体をもう制御できない、けど、思いを伝えることだけはできる。……本当に、すまなかった。許されるとは思っていないが、それだけは伝えたかった。」
「デュポンさん、僕はあなたが力を手にしたかった理由を知っています、弟さんのために、あなたはーー。」
「そこまで知ってたんだな。俺は選択を間違えたんだ。もっといい方法があったはずなのに、目の前に転がってた間違った答えを選んでしまった。」
「間違えたのは僕も同じです、あなたの側で副長として共に戦いながらあなたの苦痛を和らげることができなかった。……部下失格です。」
ガギーンッ!
二人は距離を取る。
「相変わらず、クソ真面目やろうだな、お前は。でも、それがお前なんだよな。」
「ホープの彼らにも言われます。ですが、あなたの言うとおりこれが僕なんです。だから、僕は僕であり続けます。」
「それでいい。お前のような真っ直ぐな人間は、そうそういないだろう。確かに堅物ではあるが、強い信念と正義感を常に持ち続けている。その価値観に、同意してくれる人も多いだろう。」
「それもこれも、あなたのおかげです。デュポン前隊長。」
カチャッ。
セドリックは剣を下ろす。
「……ありがとうな、そう言ってもらえると俺も救われるってもんだ。俺は、心から望んでる、この世界が人間の手によって良い未来が切り拓けることを。」
「それを、僕たちホープとミーミル様達が成し遂げます。必ず、あなたの後を追わせる人は作り出しません。」
「ふっ、明るいな。この世界の、未来はーー。」
ドゴーンッ!
デュポンの体を闇の魔法が覆い始める。
「デュポンさん!」
「悪い、セドリック。俺が力を抑えられるのは、これまでみたいだ。」
「くっ、お別れなんですね。」
「そうだ、むしろ俺はもう死んでる身だ、何も躊躇うな、セドリック。」
カランッ、カランッ。
デュポンが剣を手から離す。
「俺を、解放してくれ。頼む。」
「……はい、了解しました。」
スタッ、スタッ、スタッ。
セドリックは重い足取りでデュポンへ向かう。
「うぐっ、まさか、オーディン、ここまで想定してたのかーー。」
「デュポンさん!?」
「すまない、セドリックーー。」
バゴーンッ!
急激に闇の力が強まり、衝撃波がセドリックを襲う。
「うわぁ!!」
ズザーッ!
衝撃波によって、地面を引きずられる。
「はははっ!我が力を人間如きに制御できるわけなかろうが!甘いな、ヴァルキュリア隊の人間は!」
「この雰囲気、オーディンか!!」
「半分は当たりだ。こいつの体は我が意のままに操れる人形、いわゆる使い捨てのおもちゃさ!」
ドンッ!
メリッ!
セドリックの足元にヒビが入る。
「ふざけるなよ、オーディン。僕は、初めての感情に取り憑かれてしまったよ、これが、そういうものか。」
「なんだ、とうとうおかしくなったかーー。」
「
シュイーンッ!
セドリックは力を全開放する。
「ほう、我とやるか。」
「当たり前です、これが僕の怒り……いや、殺意です!」
セドリックとオーディンに操られたデュポンの戦いが始まる。
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