第百七十六話 涙
キィーッ。
扉を開けると、そこにはビルスキルニルの道が。
「ここは、戻ってきたのか?」
スタッ、スタッ、スタッ。
傷だらけのスノウは、辺りを見渡す。
静かな空間で、疲労困憊のスノウには周りの人間の探知はできない。
シュワンッ。
スノウの目の前に扉が現れる。
「なんだ!?」
キィーッ。
スタッ、スタッ、スタッ。
その扉からは、セラが出てくる。
「っ!セラ!」
「お兄!良かった無事で。」
出会った瞬間に二人は察した。
お互い、激しい戦いを乗り越えたのだと。
「なんとかな、ここってビルスキルニルだよな?」
「多分ね、近くにみんなもいるはず。探しに行かないと、痛っ。」
フラッ。
セラは腹の痛みにより、バランスを崩す。
「セラっ!」
ガシッ。
スノウはなんとかセラを支える。
「ごめんね、お兄。少し、疲れたみたい、ミユウとの戦闘でね。」
「そうか、そっちはミユウと戦うことになっちまったんだな。大変だったな。」
「それは、お兄も一緒でしょ。そんな傷だらけの姿、初めて見たよ。お互い苦戦しながらも、なんとか生き残った。」
「ああ、その通りだ。」
スタッ。
セラは一人で立つ。
「じゃあ、みんなを探そうか。セラ達が生きてることをみんなに知らせなくちゃーー。」
ドクンッ!
セラの心臓が大きく響く。
今まで経験したことのない、大きな衝撃だ。
そして、セラの違和感にスノウはすぐに気がついた。
「どうした、セラ?大丈夫か?」
カクンッ。
セラは脱力したように項垂れる。
「おい!セラ!どうしたーー。」
「ねえ、お兄。セラはさ、今を生きてるんだよね?」
フワリッ。
ゆっくりと頭を上げる。
「当たり前だろ、俺もお前も今この瞬間を生きてーー。」
「それって、セラがミユウを殺したからーー。」
「っ!?」
バッ!
スノウは咄嗟にセラを抱き寄せる。
その先の言葉は聞かなくても、セラが何を感じているのかスノウには分かっていた。
「違う!違うぞセラ!お前は何も悪くない、俺たちは、今この瞬間を生きてるだけだ!」
「けど、けど。セラが、手を下さなければ、ミユウはーー。」
ギュッ。
スノウはさらに強くセラを抱きしめる。
「何も考えるな、今は、生きてることだけに感謝しよう。」
「うっ、ぐすっ。」
セラから悔しさのあまり、大きな雫が溢れる。
「お兄、お兄。悔しい、悔しいよ。なんで、助けられないの。力を得る努力をした、助ける方法をたくさん考えた、けど、滑り落ちてしまった。なんでなの……。」
「セラ、お前は心底頑張った。辛いよな、そんな時は俺に頼れ。俺はセラの兄貴だ。」
「うっ、お兄……。」
ギリッ。
セラはスノウの胸に顔を埋める。
そして、
「うわぁぁ!!!!!」
セラの感情の爆発は、辺りに響き渡った。
「ミユウ、ミユウ……。」
ファサッ。
スノウはセラの頭に手を乗せてあげることしかできなかった。
「兄さん!セラさん!」
「っ!ヒメノか、良かった。これで助かる。」
「先輩すごい怪我!セラさんも!早く治療を!」
「ああ、まずはセラから、たの、むーー。」
バタンッ。
スノウはその場にセラと共に倒れる。
「兄さん!」
ヒメノ達は早急に二人を町に連れ帰り、治療を始めた。
約一時間後。
「う、うう。」
パチリッ。
スノウはある部屋の中で目を覚ます。
「ここ、は?」
「気が付かれましたか、スノウさん。」
「その声は、スノトラか?」
「はい、ご無事で何よりです。」
スタッ。
スノトラはスノウに近づく。
「痛むところは多いと思いますが、命に別状はなかったようで安心しました。」
「そうか、俺はあそこで気を失って……セラは!!」
「セラさんもご無事です。むしろ、スノウさんの方が傷は深いんですよ、ご無理はなさらず。」
「みんなが救ってくれたのか?」
コクンッ。
スノトラは笑顔で俯く。
「少しの時間でしたら、休息に使えます。ただ、敵地の中にいますので、もう少ししたら動きますが。」
「分かった、ありがとうな。少し、外に出てもいいか?」
「もちろんです。」
スタッ、スタッ、スタッ。
包帯でけがを塞がれたスノウは、部屋から外へ出る。
辺りは、他のみんなによって平和が訪れていた。
「すんすんっ。なんだ、この匂いは?」
スタッ、スタッ、スタッ。
スノウは気になる匂いの方へ向かう。
二分ほど歩くと、そこには綺麗なピンク色の花びらをつけた大きな木が。
10mはあるであろう、大木が放つ爽やかな香りがスノウを包む。
「綺麗な木だ、こんな木がこの世界にはあるのか。」
「兄さん!」
タタタタタッ。
ヒメノがスノウに走り寄る。
「おう、ヒメノ。」
「おうじゃないですよ!もう出歩いて平気なんですか?」
「まあな、少し痛むけど戦えないほどじゃない。」
ブワッ!
強い風が地面に落ちた花びらを浮かせ、空高く舞う。
その花びらに、スノウはクレイトスの姿を映してしまう。
「せん、せい。」
「兄さん?」
ヒメノはスノウのこぼした一言を聞き逃さなかった。
「いや、何でもない。みんなにも俺が起きたこと伝えないとな。」
スタッ。
スノウは俯きつつ、町の方に戻る。
ガシッ。
その姿を見たヒメノは、後ろからスノウを抱きしめる。
「おい!ヒメノ!?」
「兄さん、本当に、大丈夫なんですか?」
「だから、言っただろ?少し傷は痛むけど、戦えないほどじゃないってーー。」
「嘘ばかりつかないで!!」
ドクンッ。
ヒメノの心からの叫びは、スノウの全身に響き渡る。
「う、うそ?」
「そうですよ、なんで、なんで一人で背負い込むんですか。約束しましたよね、私たちはお互いを背負い合うんだって。」
「あ、ああ。けど、これはーー。」
「兄さんの分からずや!兄さんの痛みは、私たちの痛みなんですよ!」
ギュッ。
ヒメノの掴む手に力がこめられる。
「私が気づかないとでも思いますか!今の兄さんは、体よりも心に大きなダメージを負っている。けど、兄さんは優しいから、バカがつくほど優しいから、私たちの負担にならないように隠してる。」
「……っ。」
「ホープは家族なんですよ。支え合うための家族ですよ。なんで頼ってくれないんですか!」
ボフッ。
スノウの背中に顔がくっつく。
「私ではダメですか。」
ファサッ!
さらにピンク色の花びらが空を舞う。
その花びらは二人を慰めるかのよう。
「傷ついている兄さんの姿を見てると、私も痛いんですよ、私だけでもいいから頼ってくださいよ、ばか。」
ヒメノの目には涙が溜まる。
少し間を置き、スノウは話始める。
「俺はさ、昔先生から教わったことを思い出した。涙を流すな、リーダーは常に強くあれ、みんなの頼れる存在であれって。」
スノウは静かに話す。
「けど。」
スタッ。
体を回し、ヒメノと向かい合う。
「今だけは、先生の教えを、破っても、いいかな。」
ブルブルブルッ。
スノウは震える。
「……はい、もしその教えを破ることで罪が生まれるなら、私も一緒に背負います。」
「ヒメノっ。」
ガクンッ。
スノウは膝を降り、崩れ落ちる。
フサッ。
そのスノウをヒメノは優しく包み込む。
「来てください、兄さん。」
「ヒメノ、ヒメ、ノ、っ……。」
そして、
「うぁぁぁぁ!!!!!」
スノウの感情が爆発する。
「ごめん、ごめんよ先生。俺は、あんたを、助けられなかった。俺は何度も命を助けられたのに、俺は、俺は……。」
「兄さん。」
「恨んでくれても構わない、ただ、ゆっくり、休んでほしい。ごめんよ、本当に、ごめん、ごめん、なさい。」
ギリッ。
ヒメノを掴む力に力が入る。
「うぁぁぁぁ!!!!!」
「兄さん、そんな辛いことが……。教えてくれて、ありがとうございます。」
スノウの心からの叫びは、町にまで届いていた。
そして再認識した、スノウも一人の男の子であると。
この戦いはホープにとってとても辛いものになってしまったのだった。
第二十九章 完
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第二十九章まで読んで頂きありがとうございました。
スノウとセラはなんとか戦いに勝利。
しかし、二人には癒えるのには時間のかかる傷が。
ここは敵の町の中、二人を休ませることもできない……。
スノウ達の今後を気になってくれる方!
次の敵は! 徐々にオーディンに近づいてる!?
ホープの六人を応援してるぞ!
と思ってくださいましたら、
ぜひ、レビューや★評価とフォローをお願いします!
ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!
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