第二十九章 英雄は真実と向き合う
第百七十二話 師弟対決
スノウとクレイトスはまっすぐ見つめ合っていた。
念願の再会を果たしたことに違いはない。
しかし、二人の顔に喜びの表情は浮かんでいなかった。
「始めようではないか、スノウ。狼同士の戦いを。」
「……ふざけんなよ、なんで俺と先生が戦うんだ!この戦いは、何も生まない。この世界に何もいいことがないんだよ!」
「そんなことを考えてるようでは、お前は私に勝てない!」
シュンッ!
二刀を構えたクレイトスが迫る。
(あの構えは、
やはり間違えではなかった。
狼流派を扱えることで、クレイトス本人と嫌でも自覚することになった。
クレイトスとの距離は数m。
「さあ、武器を取れ!これが私たちの運命なのだ!」
「くそっ、なんで、なんで先生と、武器を交える必要があるんだよ……っ!ちくしょー!!」
ブンッ!
スノウも二刀を構え応戦する。
「ふんっ!」
「
ガギーンッ!
スピードに乗ったクレイトスの一撃と、大振りのスノウの一撃がぶつかり合う。
「いい攻撃だ、やはり私の最高の弟子!この戦いには意味があるようだ!」
「意味なんてねえよ!俺も先生も、向かおうとしてる未来は同じはずだ!なのに、殺し合う必要がどこにある!」
「そこまで考えるようになってるとはな、成長とは怖いものだな!ふんっ!」
ガギーンッ!
回転斬りがスノウを後ずらせる。
(あれは、
ズザーッ!
視線を上げると、クレイトスの追撃。
「くそっ!
「はぁぁ!!」
バギギッ!
クレイトスの大振りを受け止め、刀ごと氷漬けにする。
(本家の
ニヤリッ。
クレイトスは不敵な笑みを浮かべる。
「どうしたスノウ!そんなものか!それでは、この世界を守れんぞ!」
「くっ、先生を殺してまで世界を救うなんて……。」
(スノウ!スノウ!)
(っ、テュール、どうした?)
(やはりあれは変だ。俺の知るクレイトスとも違う、ただ本人であるのには違いない。)
(どういう意味だ?この戦いは先生が望んだものじゃないってことか?)
ピキピキピキッ!
クレイトスの刀に氷が纏われる。
「そんな油断してる暇があるか!スノウ!」
「ちっ、
ジャキンッ!ジャキンッ!
二人の放つ氷の斬撃がぶつかり合う。
(考えてる暇もねえ、少しでも集中を欠いたら俺がやられる。)
(考えられる可能性が一つある、デュポンやサイファーと同じ力だ。)
(メギンギョルズか?けど、先生の手には何も嵌められてないぞ。)
(あの代物が、装具でしか存在しないとは考えにくい。外側に装備してないとしたら……。)
パリーンッ!
辺りには氷のかけらが飛び散る。
「まさか、先生の内側にメギンギョルズと同じ力が入れ込まれた?」
「スノウ、大方フェンリルといろいろ話し合ってるといったところか。だが、これは私の意思だ!迷いなどいらない、全力でかかってこい!」
「オーディン、てめえの仕業なんだろ、くそがっ!」
ガギーンッ!ガギーンッ!ガギーンッ!
激しい刀と刀のぶつかり合い。
火花は辺りに飛び、二人の無駄のない攻撃の姿はこの世で一番の迫力ものであろう。
「さあ、お前の本当の力を見せてくれスノウ!私の弟子の力が、この世界を支配する力が見たくてウズウズしてるのでな!」
「そんなことを言う人じゃないだろ先生!あんたは、この世界を守るためにアトリに尽くして俺たちにも生きる術を教えてくれた!」
「そんなものは過去の話!今の私は、お前をこの手で倒すことだけを考える戦士!余計な考えは捨てろ!」
「余計なもんかよ!先生と一緒に生きていきたい気持ちはここに常にあるんだよ、捨ててたまるか!」
ガゴーンッ!
さらに二人の戦いは激しくなる。
「ふんっ、ならば私の本気を見せなくてはお前も本気にならないようだな!」
「っ!?なにを!」
シュイーンッ!
クレイトスの内側から奇妙な暗い光が生まれる。
それは、クレイトスを包み込み姿を消す。
次の瞬間。
ドゴーンッ!
包み込んだものを弾き飛ばすと、真っ黒な鎧に身を包め目が完全に赤色に染まった姿のクレイトスが。
それはもはや人の姿ではない、化け物であるゴブリンやオークの姿と酷似しているものであった。
「せん、せい……。」
「さあ、スノウ。ここからは私もどうなるかわからん、だから本気で来い!」
「断る!俺は先生を殺したくない、これは俺の意思だーー。」
「いつまでも過去に囚われるな!」
クレイトスの叫びが響き渡る。
「んなっ!?」
「お前はこの世界を守るんだろ、守りたい仲間がいるんだろ。ならば、邪魔をするものはお前の手でどうにかしろ!それが例え、自分の師でも!」
「クレイトス、先生。」
サァーッ。
辺りの空気が一気に冷たくなる。
(そうだ、それでいい。)
クレイトスは少しホッとしてるように見える。
「さあこい、我が最高の弟子よ!その力を持って、私と戦え!これは、狼流派の師であるクレイトスの命令だ!」
「くそっ、くそっ、くそっ。すーっ、
ドゴーンッ!
スノウは青い力を体に纏い、
「いくぞ、スノウ・アクセプト!私を超えて見せろ!」
「オーディン、覚悟しとけよ。ああ、先生、やってやるよ。気をつけろ、今日の白狼は怒りに満ちてるぞ。」
シュンッ!
ガギーンッ!
二匹の狼はさらにギアを上げ、ぶつかり合っていた。
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