第百四十四話 彼らの選択

「ねえお兄、ミーミル様と話に行くんだよね?」

「ああ、俺たちの進もうとする道と、あいつの目指すものが同じか確認しないとな。」

「確かに、僕たちの指標となる人かもしれないからね。しっかり確認しておかないと。」


スタッ、スタッ、スタッ。

ホープは城に辿り着く。


「お、ホープか。ミーミル様にご用か?」


アレンがホープと遭遇する。


「ああ、確認したいことがあってな。」

「そうか、ミーミル様は今近くの山にいるぞ。悪いが、そこまでいってもらえるか?」

「分かった、そうだ。アレン達先生の三人にも来て欲しいんだけど頼めるか?」

「うむ?分かった。なら二人を呼んでくるから少し待っててくれ。」


タッ、タッ、タッ。

アレンはハワードとマイトを呼びに行く。


「あたし達の意見を先生達にも聞いてもらうの?」

「まあな、俺たちを育ててくれた先生達だ。戦力になる人には、全員聞いてもらいたいからな。」

「確かに、同じ目標であれば先輩の言うとおり、お力をお借りしたいですしね。」

「そんなところだ。」


タッ、タッ、タッ。

師匠の三人も集まる。


今この場に、この国で一番戦力が高い空間が出来上がっていた。


「じゃあ、行くか。」

「ああ、俺が案内しよう。」


スタッ、スタッ、スタッ。

アレンを先頭にミーミルのいる山へ向かう。


「白狼よ、ミーミル様と昨日何か話していたのか?」

「ん?ああ、夜にたまたま会ってな。大した話はしてねえけど。」

「そうか、まあいいが。」


山の中腹に辿り着くと、そこにはミーミルの姿が。

背中には、一つの銅像が聳え立つ。


「ん?ああ、皆揃ってどうしたんだ?」

「ちょっと話があってな。ん、これはアトリの銅像か?」

「ああ、我が父上の偉大さを表すものだ。」


アトリの姿をした5mはあるであろう銅像が置かれている。


「ふーん、んで、何か相談でもしてたのか?」

「っ!?なぜそう思うのだ?」

「昨日の今日だからな。」


ミーミルは俯く。


「白狼よ、昨日の夜話したことについて考えてみたんだ。」

「そうか、それで?」

「……やはり、私は父上を継ぎたい。ギムレーの王になり、皆を導いていきたい。」


ミーミルは顔を上げ話し始める。


「けど、やはり不安なんだ。私で、いいのか。」

「……はぁ、やっぱりそうか。」


タッ、タッ、タッ。

スノウはミーミルのそばまで歩く。


「は、白狼?」


ブンッ!

チャキンッ!

スノウは刀を抜き、ミーミルの首の真横に構える。


刀の勢いを表すかのように、アトリの銅像とぶつかった金属音が響き渡る。


「白狼何を!」

「兄さん!」


スノウ以外の人たちは、慌て始める。


「白狼、これは。」

「お前の望みはなんだ?」

「私の、望み?」

「ああ、お前は何を成し遂げたい?お前のやりたいことはなんだ?」


スサーッ。

風が二人の頬を撫でる。


「わ、私は、この国を守りたーー。」

「建前を聞いてんじゃねえ!俺は、お前の本音を聞いてるんだ!」

「っ!?」

「白狼!いくらトップであっても、その行いは許せん!」

「待ってくださいアレン先生!後少し、時間をください!」


ヒメノがアレンを止める。


「私の、やりたいこと。」

「そうだ。お前は、記憶の探究リマインドを使ってアトリの記憶を覗き込んだんじゃねえのか?」

「っ!?なぜそれを。」

「やっぱりな、あんたは昔の俺そのものだ。一人で抱えて、一人で苦しむ。昨日の夜、自分の力を知ったあんたは、父親を継ぐことができるか確かめたんだろ。」


スノウの目は狼の如く鋭くなる。


「ああ、その通りだ。我が父上は、本当に偉大な方であった。多くの町を救い、多くの民を救い、この国を繁栄させていった。」

「確かにそうかもな。アトリがいなかったら、俺たちは生まれてなかったかもしれねえ。」

「そう、そんな人と比べたら、私はとても劣っている。私はただ、信頼してくれる者たちの命を犠牲にしてただ生き残ることしかできない弱者だ。」


ミーミルの顔に涙が浮かぶ。

それは悲しいからではない、悔しさからくるものだった。


「じゃあ、楽にしてやろうか?」

「え?」

「俺がこの刀を横に滑らせれば、お前を苦しめてるしがらみを解くことができる。もちろん、お前の手足を引っ張てる。」

「そ、そんなことはない!彼らは、私のために戦ってくれた!侮辱することは許さない!」


二人の温度感が上がる。


「そいつらのことを思ってるなら、なんで立ち止まってんだよ!」

「怖いんだ!私は、多くのものの命をもらっている。その者達に苦しみや悲しみを与えてしまわないか、怖くて仕方がないんだ。」

「なあ、アトリは一人でギムレーを作り上げたのか?」

「どういうことだ?」


ミーミルは涙で崩れた顔でスノウを見る。


「そのまんまだ。アトリの作り上げたこの世界は、一人だけの力で出来上がったのか?」

「そ、それは、確かにクレイトスを含め、各セクターの師匠達が、父上の仲間がいた。」

「そうだろ。俺はお前に昨日なんて言った?」


ミーミルは夜のことを思い出す。


「人間は、一人ではただの弱者。」

「そうだ。アトリも一人じゃただの弱者なんだ!けど、仲間がいたから偉業を成し遂げられたんだ!」

「でも、私にそんな仲間はーー。」

「なら俺たちを頼ればいい!!」

「っ!?」


スノウの力強い目を見る。


「ミーミル、あんたがこの国を救ってくれるなら、俺たちが露払いをしてやる!あんたに迫る敵は、俺たちが全部ぶっ倒してやる!」

「は、白狼ーー。」

「俺は白狼じゃねえ!俺は、スノウ・アクセプト。ホープのリーダーで、この国最強の戦士だ!さあ選べ、ミーミル!あんたが目指す茨の道の先にある世界に、俺たちを巻き込むか!それとも、散って行った者達を追ってここであんたも散って楽になるか!」

「わ、私は。」


少しの静寂の後、ミーミルは顔を上げる。





カチャ。

スノウの刀の刃を手で掴む。




「私は、前国王アトリの息子、ミーミル!私の進む道に障害があるなら、何度でも乗り越えてこの国を取り戻す!だから、力を貸してくれ、スノウ。」

「へへっ。」


カチャンッ。

スノウは刀をしまう。


「ああ、俺たちがあんたの前にある壁を全部ぶち壊してやる!この世界を頼むぜ、次代国王、ミーミル!」


スサッ。

スノウは手を伸ばす。


「ああ、よろしく頼む。ホープのリーダー、スノウ。」


スサッ。

ガシッ。

二人は固い握手を交わした。

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