第4話

 夕ご飯も食べ終わり1人部屋で紬は、くつろいでいた。


 ベッドにドサっと横になって、宿題の教科書やノートを開きっぱなしで途中のまま、スマホのラインを開いた。


 ラインのプロフィールの画像が惑星8個のイラストになっているのが陸斗のものだった。


 背景写真はお気に入りのバイクの写真だった。


 ライン友達登録して、3日が経っても、何もメッセージもスタンプも送り合っていない。



 いつになったら、一緒のバスに乗れるのか、気になって仕方ない。



 急かすのも申し訳ないし、自転車で帰りたいだろうし、お金を使わせるのも悪い気がしてきて、誘いたくても誘えない。



 バイクの後ろに乗せてくれたのがすごく嬉しくて、スピードも早くて、陸斗の背中はあたたかくて、何よりバイクの走る音色が心地よかった。



 遊園地のジェットコースターも怖がることはない。高いところも平気。



でも、バイク後ろは生まれてきて1回も乗ったことがなかった。



 危ないってことは分かってはいた。



 暴走族の走るバイクは好きではない。

 騒がしいばかりで優しさがない。



 陸斗が運転するバイクがいい。



 それが叶わなくても、一緒にいられるだけで充分のはずのにーー



 持っていたスマホをベッドから落とした。


 寝落ちしてしまったようだ。



 押したつもりのないスタンプが、陸斗のトーク画面で表示されていた。

 紬は気づかずに眠りに落ちる。


 表示されていたスタンプはウルッと可愛いペンギンのイラストで泣いてるものだった。


 コメントは特に表示されていない。




ーーー


 いつも、こまめに見ないラインを陸斗は、就寝前にチェックしていた。



 音楽はiPodでよく聴いていたため、スマホは基本連絡手段としてしか使っていない。


 スマホのゲームやアプリはダウンロードしても使わないことが多かった。



 トイプードルの可愛い写真をプロフィールにしていた紬のプロフィール画像。


 背景には月の綺麗な写真を表示していた。


 気にしないようにするのは結局、気にしてるってことで、陸斗は、紬のトーク画面を表示させると、スタンプだけが送られて来ていた。


 何もトークを送り合っていないのに、突然のウルッと泣いているペンギン。


 それを見て、陸斗は悩んだ。


(これは、俺はどうすればいいんだ。)


 スタンプにどう返せばいいかわからず、悲しんでるのかと感じて、ライン通話を押した。



 紬はライン通話が来ていることに全然気づかず、手元でずっと着信音が鳴り続ける。



隣の部屋にいた弟の#拓人__たくと__#が、ずっと鳴る着信音に気付き、そっと紬の部屋に入った。



 ベッドの脇の手の中でライン画面が表示されて、着信音が、鳴っている。


 体をゆすって起こそうとした。


「え?!きゃあ!」


 寝てるところを突然揺すられたため、紬はびっくりして、スマホを放り投げてしまった。拓人は、首をヒョイっと避けて、ドアに当たって落ちた。


「何してんだよ?!」


「だって、拓人、今、体触ったでしょ!!何するのよ?」


「はあ? そんな貧乳の体なんか興味ないわ! 電話! LINE鳴ってたから起こしに来たの! スマホ投げたからもう消えたかな。」


「な?! な! 貧乳で悪かったわね! って、私のスマホ~…どうにか、外傷は無しで良かったぁ。」


 不機嫌そうに拓人はため息をついて、隣の部屋に戻って行った。

 紬は慌てて、スマホを確認する。


 時刻は既に22時30分、そろそろお風呂に入らないといけないなと考えながら、スマホを確認すると思いがけない人からのライン着信が入っていた。


「え、嘘、私変なスタンプ送ってるしぃ。しかも、着信って絶対勘違いされてるわ…。どうしよう、電話緊張するな、やめようか、ううう。」


 緊張のあまり部屋をうろうろしながら、泣きそうになる。

 人は緊張しすぎると涙を流してストレス発散してしまうのかもしれない。


 そうこうしている間にもう1回着信が入った。

 今度はスマホ着信。

 名前は庄司輝久と表示される。


「もしもし…。」


 気を使わなくて済むし、自然の流れで電話に出た。


『紬? ごめん、今電話してもいい?』


「う、うん。どうしたの?」


『いや~、最近、紬とバスに一緒乗れてないなぁって思ってて、帰りもいつの間にかいないから、俺のこと避けてるのかなって思って…気になって、電話してみたところなんだけど…。』


「あ、ああ。その件ね。べ、別にそう言う訳じゃないんだ。親に車で送迎してもらってて…寝坊しててね。だから、輝久を避けてるわけじゃなくて…たまたまだよ。」


 本当は輝久に会いたくないから避けていた。事実だったけども、適当に嘘をついた。バスも時間帯ずらして乗っている。


『そっか。俺、何か紬に悪いことしたかなと思っててさ。学校でも全然会わなくなったから…あ、あの子との3人で出かける話ってどうなった??』



 紬はその話を聞いてテンションが、下がった。

 山口友実子との話だった。


 紬はラインでメッセージを送っていたが、彼女のラインには一切既読マークは付かなかった。


「あー、友実子との話ね。何か部活の試合とかで日曜も忙しいんだって、だから難しいかもって言ってたよ。」


 適当にそれっぽいことを言って話を終わらせようとした。


『あー。そうなんだ。友実子ちゃん確かバレーボールしてたもんね。高校でもバレーしてるのかな。突然の、お誘いは、やっぱり見込みないか。残念ッ。仕方ないから、紬とどこかに行こうかな? 来週の日曜日、暇?』


 輝久は気持ちを切り替えるように話を変えた。紬は良い気持ちがしない。


「え、何それ。その、二番煎じみたいな紬でいいかって嫌なんですけど…。私だってこう見えても用事あるんだから!日曜日は輝久とはどこにも行けません!」


気分を害することを言ってしまったと、後悔した輝久。



『……もしかして、3年の大越先輩?』




「…そ、そう。陸斗先輩と付き合ってるから、輝久とは一緒に行けないから。来週の日曜日もデートだし。ごめんね!」


 イライラから大きな嘘をついてしまった。

 そんな約束どこにもしてないし、付き合ってもいない。


 気持ちはもう輝久から陸斗に傾いてるのか、輝久への当てつけ。


 自分に振り向いて欲しいって思ってるのかもしれない。


『冗談で聞いたんだけど、本当だったの? …ごめん。んじゃ。電話切るね。』



 紬はそんなこと言わせるために嘘ついてまで怒ったわけじゃない。

 焦りを感じて、とっさに。


「あ、あー。明日とかバスで行くかもしれないけど、もし一緒になったら、私の話聞いてよね。いつも、輝久の話ばかりだったし!」


『ふーん。別に良いけど。それじゃ、明日。おやすみ。』



 昔からの幼馴染でお互いのことをよく話す2人だった。


 輝久の方が先に好きな人の話したはずなのに、陸斗の話が出た瞬間に機嫌悪そうな雰囲気になる。



 紬は慌てて、陸斗にライン電話し直した。



(先輩、早く電話出て!)


『あ、陸斗です。』


「陸斗先輩! 電話いいですか?」


『いや、むしろ、電話したの俺の方だけど…何、あのスタンプ、どう言うこと?』


「あー、それは、間違いスタンプです。気にしないでください!それよりも、来週日曜日って何か用事ありますか?」


 早口で話し出す。陸斗は静かに聞いた。


『日曜日はバイト入ってて、午後からなら暇だけど、なに? バイクは使えないよ。』


「それじゃ、プラネタリウム見に行きません?一緒に。と言うか、彼氏のフリしてもらってもいいですか?」


『え、は? 良いけど。なんで、彼氏のフリ…?』


「幼馴染の輝久に負けたくなくて!彼氏いるよってアピールしたいんです。#フリ__・__#でいいですから。お願いします!」


『…よく分からないけど。まあ、良いけど、時間は?』


「えっと、午後4時からの投影時間があったと思うので、バスに乗って行きましょう!」


『4時からってことは、3時頃発のバスに乗らないと…悪いけど調べててくれる?俺、そう言うの分からないから。』


「良いですよ。調べておきます。誘ったのは私ですし、大丈夫です。あ、そろそろ0時なりますね。おやすみなさい。」


 そう言うと紬は返答を待たずして、通話終了ボタンを押した。

 緊張しすぎていた。


 自分が自分じゃないようだった。


 電話を終えた陸斗は、スマホに充電器のコードを指した。


 枕を抱きしめて、眠りにつこうとしたが、目が冴えた。



 明日も朝早くにバイトの新聞配達があるのに何度寝返りを打っても寝付けなかった。


“彼氏のフリ“に未だ納得できていなかった。


 本当の彼氏にはなれないのかと少し自信を無くした。




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