第15話

帰り道。

私は、マザーリーフへと乗り込んだ瞬間に、盛大に泣いた。

気持ちを抑えることなんて、出来なかった。


本当は、彼に涙を見せるつもりなんてなかった。

笑顔で、その限られた時間を過ごしたかったのだ。

それなのに、彼の姿を見た途端に、大泣きして、

おまけに鼻水まで垂らして、彼に笑われたではないか。


でも、彼は、笑いながら鼻水を拭ってくれた。

彼は、彼のままだった。


「最愛の人と離れるのは辛かったであろう。」


ふと、横を見れば、おじいさんが泣いていた。

そうして、徐に、大きなハンカチを取り出すと、

チーンと盛大に鼻をかんだ。

なんだかその音が可笑しくて、思わず笑ってしまった。


ずっと思っていたけれど、このおじいさんは、

神様に近い存在であるにも関わらず、なんだかとても、人間に近いような気がする。

こうやって、痛みを理解しようとしてくれるのは、

優しい心の持ち主だからなのだろう。


神様とか、その類のものは、もっと冷酷なイメージがあった。

人間のような感情なんて、持ち合わせてはいないのだと思っていた。

でも、それは違うのかも知れない。


いつか、このおじいさんが神様になれる日が来たのなら、

きっと、とても優しい神様になるんだろうな。


大きなハンカチをしまうと、おじいさんは、話し始めた。


「お前は、神を恨んだことがあったな?

何故、彼を生かしてくれなかったのか、彼を返せと、酷く、神を恨んだな?

でも、人間の生死は、神にはどうも出来んのじゃよ。

それは、神が決めることではない。

・・・

試練という言葉があるじゃろ?

人間は、誰しも、試練を乗り越えねばならないのだ。

でもそれは、人間を苦しめるためにあるのとは違うのじゃよ。

大きな夢を叶えるためには、

大きな辛いことを糧にしなければならないこともあるのじゃ。

お前はまだ、試練を乗り越えている最中じゃ。

いつかそれを乗り越えた時に、わしの言っている意味が分かるじゃろう。

自分の思った通りに、真っ直ぐ、歩んでいくのじゃぞ?」


私を真っ直ぐに捕らえた、ブルーグリーンの瞳は、

深く、とても優しい色をしていた。


おじいさんの話を黙って聞きながら、私は、ただ頷くことしか出来なかった。

ずっと先になるかも知れないけれど、

いつか、私にも理解出来る日が、きっと来るのだろう。





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