第13話

私の名前を呼ぶ彼の声が聞こえる。

この耳にハッキリと、彼が私を呼ぶ声が聞こえる。


ソファーから対面した壁の、アーチ型に光る場所の前に、彼が立っていた。


走って彼のところへ飛び込んで行けば、彼は、私を抱き締めてくれた。

彼の名前をただ呼びながら、その温もりを感じていた。

どれくらいそうしていたのか、不意に私の顔を覗き込んだ彼は、笑い出した。


「ブハッ!鼻水垂れてるよ。」


そうして、ポケットから取り出したハンカチで、鼻水を拭ってくれた。

彼のハンカチは、とてもいい香りがした。


「よく来たね。」

そう言って、私に向けてくれたのは、あの頃と同じ笑顔だった。


涙を流す私の頬に、添えてくれた彼の手を握り締めると、

彼の手は、私の中の記憶にあるその温もりのままだった。

私はこの手の温もりを、1日たりとも忘れたことはなかった。


私を守ってくれた大きな手。

暖かで、優しくて、とても強い、大好きな手。



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