第101話 不可解なまま、あの時は近づく

 

 セカンドを助け出そうとした私を阻止するべく、「辞めろ」と言った由良は左手にアタッシュケース、そして右手には拳銃が握られている。2つのうち、どちらに視線を絡めとらるかは考えるまでも無かった。

 

「ゆ、由良さん?」

「杏ちゃん、セカンドから一歩離れなさい」


 由良が銃口をくいっと動かして命令する。私は逆らうことなく彼の言うとおりにセカンドから1歩距離を置くと、今度はセカンドが由良に質問を投げた。


「由良さん……なんでそんなもの持ってるの? 私、本で読んだことあるよ? それって人を傷つける道具だよね?」

「黙ってなさいセカンド。お前のそのガキみたいなところ、最初から虫唾が走るほど嫌いなんですよ」


 心無い言葉でセカンドの問いは一蹴され、当の彼女は「どうしてそんな酷いことを言うの?」と顔に書いてあるかのように、悲しげな表情を浮かべる。

 しかし、今のやり取りで激昂したのは横から見ていた私だった。


「酷い……! 何てこと言うのっ!?」


 感情が先走り、思わず由良へ足を1歩前に出す。すると、即座に由良はパンッと私の足元に1発の威嚇射撃を放った。

 

「自分の今の立場が分かっていないんですか?」

「由良さん……どうしてこんな事を!」

「全ては計画の為……ていう感じでしょうか?」

「……計画というのは、セカンドを研究材料として解剖する事ですか?」


 極秘だったはずの情報が私の口から出た事に由良さんは、きょとんとした表情を見せる。しかしそこに焦りは無く、余裕が伺えた。


「あ〜どこでそれを知ったか知りませんけど……半分当たりで半分はずれっす」

「ど、どういう事ですか?」

「毎日のようにここへ来ている杏ちゃんなら、セカンドが何故ここで外にも出られず毎日、人体実験もどきのような生活を送っているのか、知ってますよね?」


 もちろんそれくらい知ってる。

 セカンドは私達とは違って不思議な力がある。その研究が終わるまで、彼女はここから外へ出られない。


「もちろん知ってますけど……」

「ちなみにどんな力なのかは?」

「それは……知りません。セカンドも教えてくれないので」


「そりゃあ口止めしてましたからねぇ」と由良は言って、クククと笑う。その笑顔は……とても気味が悪い。


「もしセカンドの正体を知ったら、友達なんて愚か、そんなふうに近づく事すらしないでしょうね」

 

 そんなことない。

 どんな理由があろうとセカンドは私の幼馴染で親友だ。目の前の男から何を言われようと……それは絶対に変わらない。


「セカンドは……セカンドは何があっても私の大切でかけがえの無い親友よ!」


 堂々と由良に言い放つ私にセカンドは目を滲ませる。一方で由良は大きなため息をついた。


「だからなんですか? たかが友情なんかで……気持ちだけでは守りたいものは守れないのに……」


 どこか悲しそうな由良に少し違和感を覚えた。由良の今の表情、まるで何かを後悔しているかのような……そんな感じだった。しかしそれも束の間、由良はまたいつものようなヘラヘラとした顔で、腕時計を眺めた。


「おや、時間があまり無い。始めましょうか」


 由良はそのまま銃口を向けながら、移動を始める。そしてセカンドが縛られている石柱のすぐそばの祭壇に左手で持っていたアタッシュケースを置くと、銃口を私から逸らすことなくアタッシュケースのパスワードを入力し、ロックを解除した。

 

 ケースを開くとその中には、一輪の白い花が入っていた。


「こ、これはなんですか?」

「んー私達人間の理解の及ばない代物ってところですかね?」


 その花を丁寧に持ち、由良は「ついにこの時が」と呟きながら祭壇中心部にある小さな穴にまるで生け花のように花を挿した。

 

「さて、ここからが本番です。杏ちゃん、正直なところ、あなたがここに来てくれて助かった」

「ど、どういうことですか?」

「いや実はね、準備が終わったら豊君か杏ちゃんをここに呼ぼうって思ってたんです」

「ど、どうして豊を!?」

「それは……おっと説明する時間はありませんね……杏ちゃん、はいこれ」


 由良は懐からあるものを取り出す。シースに納められた刃渡り30センチほどの大きなナイフだった。片手で外せるほどの簡単な金具で留められたシースを外し、巨大な刃が姿を見せると由良はそのナイフを私の足元に投げた。

 床に落ちるとカランカランと金属製の音を立てたナイフを見つめる。そして由良は銃口の向きを私からセカンドに変えた。


「選んでください……セカンドの頭に鉛を撃ち込まれるか、そのナイフで自分の指を切り落とすかを……」

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