第37話、カシスオレンジのとばり

ほんと、きっつい。

若くなかったら、無理!!


「あとちょっとで、す!」

「もう、む、り」


「ボローニャ観光、日本人だと大学とか市庁舎とかワイナリーとかがメジャーですが、ボローニャの斜塔からの景色とか、おすすめです」


「500段の階段、舐めてた」

「狭いし、一段一段がすり減って、丸くなっているから、余計に登りにくいんですよね」


左手は壁、右手は手すりがあるけど、通路幅もあまりないのに降りてくる人もいて登りにくいし、何より500段とか、あり得ない。


正確には498段です。

うっさい!大体でいいだろ!

素直に魔法で登ればいいと思うんですけどね。

ポメくん1人だけ登らせるとか、

ほら、おんぶするとか?

あ!たしかに。


「よ、し、ついた」

「お疲れ様でした!」


元気よくしっぽ振ってくれるたむくんに褒められながら、外に出ると、夕方のオレンジが街を染めて、遠くはラピスラズリの色。


「な、にこれ?綺麗すぎて、言葉、見つかんない」

「ですねー」


バルコニーに降りて、設けられている金網に近づいてみれば、どこまでも続く赤と砂色の街が金色に近いオレンジ色と混ざって、光っている。


空を見上げれば、すでに星が見えている。

少しずつ、濃紺のロールカーテンが降りてくる。

カーテンの境目辺りは水色の青空が残っていた。


言葉にならない。インスタとかに載る「映える」景色なのは間違いない。教科書とかで見た写真。


写真やゲームと違うのは、少しずつ、夜のとばりが街に降りてくることと、誤魔化しようのない匂い。


風が当たる。風に重さがあるってわかるぐらいな強風だし、足元は斜めに傾いている。


澄み切った上空の空気が冷たく鼻を抜ける。

空気の匂いからして、日本じゃない。ゲームじゃない。写真でもない。五感が刺激されて仕方がない!


これが、本物の生きている街


「どうです?気に入りました?」

「もうバッチリ。どうしたらいいのかわからないぐらいにカルチャーショック」

「とりあえず、一周しません?地平線まで続く街に夜のとばりが降りるとか、インスタ映え間違いないですね」

「うん。そう思う。よく見てた。いつか行ってみたいな?とか思ってだけど、写真でいいかって来なかった」


全然違いません?

「絶対実際に来た方がいいですよ!」


「うん。そう思う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る