第36話、伝統の重み
かなり荒目に潰された牛肉はステーキに近いジューシーさを保っている。
パスタは乾麺特有のツルツルさを持ち、フォークで絡め取ると端の方が「ほうき」を掃くようにお皿のソースを掃いてしまう。
トマトベースのソースに生のブイヨン独特の臭みがセロリに近い香味野菜の香りを纏って鼻から抜けていく。
牛肉を噛み締めると溢れる肉汁が、噛むごと口内で調理され混ざっていく。
飲み込んだあとはかなり重い。こびり付いた脂をタンニンが多い、渋めのワインでこそぎ取る。
「これ、水だと脂が口の中から取れないね」
「脂の方が水を弾いてる感じですね」
ひとくち目の美味しさは、ふたくち目からは「重さ」に変わる。食中酒を飲んで脂を落としながら食べ進める。
「これ、味が薄くない?もうちょっと塩と胡椒が欲しいかも」
「そこでこれです!パルメザンチーズ」
どっかの猫型ロボットみたいな出し方で差し出された粉チーズ。
ボローニャでボロネーゼを食べて、猫型ロボットの真似をしたポメラニアンさんからパルメザンチーズを差し出されて、いま。
俺は。
ゆっくりとその白い粉を、ふりかけた。
そして、ゆっくりと混ぜたあと、それを口に運んだ。
まず鼻腔をくすぐるのは、柔らかなミルクの香り。微かな酸味が香りに混ざる。
「あ、塩っ気と酸味がプラスされたから、食べやすいかも。チーズかけたらもっと脂っこくなるかと思ってた」
「不思議ですよね。俺は酸味があるからだと思ってます。このサラダも美味しいですね」
「あ、うん。おれもバルサミコと塩とオリーブオイルのサラダがこんなに美味しいとは思わなかった。これ、生ハム入れてパンに挟んだら、一食これでいいや、な感じ」
「ボロネーゼさんが泣いてますよ」
「いや、美味しいんだけど、ちょっと脂が多すぎて食べるの飽きる」
「あー、まあ、確かにひとくち目さいこー。な料理ですね」
「でも、食べれて嬉しい。この場所もシックでオシャレだし」
「この街はいにしえからある学園都市なんで、全体的にビビットなんですよ」
「このボロネーゼも学生向けならわかる。ひたすら腹ペコじゃん、学生って」
「肉!炭水化物!チーズ!ですからね。パンチの強い味が好まれますよね」
シャキシャキなサラダで口をリセット。シンプルなのに、野菜の苦味とバルサミコ酢の酸味が美味しい。
こちらは大人。オプションパーツのワインとサラダの力を借りて、あと半分ぐらいな「学生御用達なパスタ」に挑み掛かる。
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