第六十九話 ~第三勢力~
動けなくなった雨切を見て満足したのか、真はあらわになった双眸を山橋のほうへと向けた。
「初めまして、と言ってもあなたなら僕が何なのかわかってますよね?」
「……元エスケープ研究チームによる非公式のリターナー監視委員会。ですが、あなた方はこの間引きには合意していたはず。何故私たちと敵対するのです」
「まぁ、そちらも色々と焦ってたんだろうけど、もう少しメンバーの把握はちゃんとしておきましょうよ。もっとも、元研究チームが全員参加しているわけでもなく、非公式故にメンバーのリストがないんじゃ仕方なかったのかもしれないけどさ」
山橋の目が見開かれた。
それは驚きによるものではなく、腹部に突き立てられた剣による痛みのためだ。
地面に膝をつく山橋に構う様子もなく、真は淡々と言葉を続ける。
「大変でしたよ。何故か風石がそちらの都合合わせ用の殺害リストにピックアップされてるんですから。まぁ街中を白間燕翔と一緒に堂々と行動していたせいで勘違いされたんでしょうけど。最初からそうなる可能性も覚悟の上で行動していた研究チームならいざ知らず、ただ純粋に白間燕翔と一緒にいたかっただけの風石が間引かれることを見過ごすわけにはいかない」
剣が引き抜かれ、山橋が地面に倒れ込む。
「色々とトラブルがあったせいで風石が中心となってしまいましたが、僕が白間燕翔に頼まれたのは事態の収束です。そして、あなたが間引かれるのは単純にその方法に問題ありと判断したため。言うなれば、不合格というやつです」
真は心底呆れたように空を仰いだ。
「こちらの誤算は莉緒が想像以上に過激な手段で事態の打開をしようとしたこと。街の爆破なんてされたら、こじつけではなく本当にあいつが間引きの対象になるところだったので肝を冷やしたよ」
「爆、破……?」
「こっちの話ですから気にしないでください」
莉緒に頼まれたことの内、真がやったのはお手製の爆弾を作るところまで。それ以上はやりすぎなうえに、そんなリスクを取らなくても津羽音を助ける方法が真にはあった。
現界値まで性能を引き上げるリミッターの二段解除を最後の切り札としていた莉緒同様、真にもあったのだ。
全てをひっくり返せるほどの切り札が。
地面に倒れる山橋は荒い息を吐きながら、それでも力強い眼差しで真を見据える。
因果応報の下、自分を始末しに来た死神。
もしもこれが自然の摂理ならば素直に従うところだったが、真は気になる言い回しをしていた。
「……あなたは、私を不合格と言った。研究チームという立場故の行動ではなく、あなたにはもっと他の役割があると感じられましたが?」
「ご明察」
伊崎真の切り札。
その片鱗はとっくに露見してしまっていた。
例えば、たった今雨切との戦いで使った
莉緒という特殊な経歴を覗けば、
例えば、銭湯のおっさんの言葉。
政府の人間という先入観で莉緒は思わず流してしまっていたが、おっさんは莉緒に向けて確かにこう言っていた。
「君の後に入ってきた政府の人にだよ』と。
莉緒の後に入ってきたのは雨切ではない。莉緒の後に入ってきたのは……。
「僕は政府の人間です。と言っても、この内部ではなくて、外部の方のだけどね」
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