17番目の彼女へ
南部りんご
プロローグ
「――それでは、この研究の最大の功労者、遠瀬ルイ博士からのコメントです!」
明るい壇上に出ながら、私は自分の首元に下げている記録媒体を指でなぞった。
それは、これまでの「私」が、必死に生き抜いた記録。生きて、そしてひとつの例外もなく、非業な最期を遂げた記録。そして、それを見守ってきた睦月の記憶。
この記録媒体は、睦月の記憶を、風化しないように彼自身が保管したものだ。
決して忘れないように。――それは、祈りなのか呪いなのか。
私はマイクの前に立ち、大きく息を吸う。
「ご紹介いただきありがとうございます。この研究は、決して私ひとりでやり遂げたものではありません」
しん、とした会場内に、私の声が響く。
――ようやくだ、と思う。
私はこの瞬間のために、人生のほとんどの時間を費やした。
「この賞を、私を支えてくれた父と、そして――私の命の恩人であり、マーメイド・ジーンの始祖である『彼』に捧げます」
会場の中が、一気にざわめきに包まれた。私は鼓動が速くなるのを感じ、深呼吸する。
これは、十六番目の、私の遺言だ。
私は、首元の記録媒体を握る。ひんやりとしたその表面は、まるで、睦月そのもののようだった。
睦月、あなたは、「私たち」を愛しすぎた。
そして、守られて甘んじるようなか弱い女でないことを、すっかり忘れているのだ。
これは、運命に抗い、ただひとりを手に入れるために全てを捨て——のちに世紀の悪女と呼ばれるようになった、私の物語。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます