17番目の彼女へ

南部りんご

プロローグ 

「――それでは、この研究の最大の功労者、遠瀬ルイ博士からのコメントです!」


 明るい壇上に出ながら、私は自分の首元に下げている記録媒体を指でなぞった。

 それは、これまでの「私」が、必死に生き抜いた記録。生きて、そしてひとつの例外もなく、非業な最期を遂げた記録。そして、それを見守ってきた睦月の記憶。

 この記録媒体は、睦月の記憶を、風化しないように彼自身が保管したものだ。

 決して忘れないように。――それは、祈りなのか呪いなのか。

 私はマイクの前に立ち、大きく息を吸う。


「ご紹介いただきありがとうございます。この研究は、決して私ひとりでやり遂げたものではありません」


 しん、とした会場内に、私の声が響く。

 ――ようやくだ、と思う。

 私はこの瞬間のために、人生のほとんどの時間を費やした。


「この賞を、私を支えてくれた父と、そして――私の命の恩人であり、マーメイド・ジーンの始祖である『彼』に捧げます」


 会場の中が、一気にざわめきに包まれた。私は鼓動が速くなるのを感じ、深呼吸する。


 これは、十六番目の、私の遺言だ。

 私は、首元の記録媒体を握る。ひんやりとしたその表面は、まるで、睦月そのもののようだった。

 睦月、あなたは、「私たち」を愛しすぎた。

 そして、守られて甘んじるようなか弱い女でないことを、すっかり忘れているのだ。


 これは、運命に抗い、ただひとりを手に入れるために全てを捨て——のちに世紀の悪女と呼ばれるようになった、私の物語。

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