第26話 待ち合わせ
校門前に到着する。
「あの子が光里?」
月乃が校門の壁に寄りかかり、ぶらぶらと鞄を揺らしている光里を指さす。
「そうだけど……その前に一ノ瀬さん?」
「……」
「……月乃」
「なに? 秋」
「そのどうして腕を組んでるのでしょうか?」
ここまでくる間凄い見られたんだけど。特に男子に。
「いや?」
「そんなことはないんだけど」
嬉しいか嬉しくないかで言えば間違いなく嬉しいんだけど、それ以上に周りからの視線に耐えられる自信がない。
「ならこのままでいいよね?」
「それは……」
どう返答するべきか迷っている中で、月乃は秋の松葉杖に視線を向ける。
「……この状態だったら、秋が倒れそうになった時すぐに助けられる」
「その理由いま考え付かなかった?」
「……そんなこと、ない」
だったらなんで視線を逸らした?
「それより早く行こう。人を待たせるのは良くない」
「ちょ!?」
話題を変えるように彼女が絡めた腕をグイっと引っ張る。そのせいで肘に柔らかな感触が!!!
「あっ、秋先輩」
秋の姿を確認して顔を綻ばせた光里だったが、すぐに隣で腕を絡ませている月乃を見てスンと無表情になる。
「秋先輩、どうして腕を組んでるんですか?」
声のトーン的に怒ってる? あれっ、一緒に行くの事前に許可取ったって言ってたよね!?
「えと……」
「秋が倒れそうになった時にすぐに助けられるように」
横から月乃が口を挟む。
「一ノ瀬先輩ですよね? 初めまして1年の真田光里です」
光里は瞳を月乃に移してにこりと微笑む。
「一ノ瀬月乃。よろしく」
対する月乃もうっすらとだが笑みをたたえている。
「だったらその役、あたしが変わりますよ。今日秋先輩を呼び出したのはあたしですし、付き添いの一ノ瀬先輩に迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「問題ない。それに秋が足を骨折したのは私のせいだから。治るまで私がフォローする義務がある」
2人の視線がまっすぐにぶつかる。表情だけを見れば美少女2人の会話という目の保養になりそうな光景のはずなのに、何故だろう、そう感じれないのは。
結局、その押し問答は5分ほど続き、2人とも腕を組まないということに落ち着いた。
「じゃあ、秋先輩行きましょうか」
するりと秋の左隣に移動した光里が柔和な笑みを浮かべてくる。
「そ、そうだね」
「あれ、もしかして秋先輩、照れてます?」
光里がにやにやと口元を緩ませる。
「そんなことないけど」
「ほんとですかー?」
からかうような視線に耐えかねて逆を向くと、すぐ横にいる月乃がじっとこちらを見ていた。
「えっと、月乃どうしたの?」
「別に、仲がいいんだと思って」
「ああ、実は真田さ……」
「じっ……」
「……光里は妹の友達で……」
「GWに秋先輩の家に遊びに行かせてもらうぐらいには仲いいですよね」
今度は光里が口を挟む。
「秋の家に?」
「楽しかったですよ。秋先輩また遊びに行っていいですよね?」
「いや、俺は別にいいけど……」
それは栞奈に聞くべきじゃない?
「ありがとうございます!」
光里はまるで勝ち誇ったような笑みを彼女に向ける。
「むっ……秋」
月乃がくいくいと袖を引っ張ってくる。どうやら彼女は袖を引っ張るのが好きみたいだ。
「私も今度秋の家に遊びに行っていい?」
「えっ!?」
「だめ?」
「……っ。別にいいけど……」
至近距離であんなお願いをされて思春期の男子高校生が断れるだろうか。
「ありがとう。楽しみにしてる」
月乃は小さく微笑んだ後、光里に視線を向ける。まるでこれで私も同格だと言わんばかりだ。
「秋先輩、美人だったら誰でも家に上げちゃうんですね」
「物凄い人聞きの悪いこと言わないでくれるかなっ!?」
まるで俺が女の子をとっかえひっかえしているように受け止められかねないから。そんなの周りに聞かれたら入学して早々に俺の高校生活終わるからね!
「でも事実じゃないですか。いまだって一ノ瀬先輩にお願いされて顔緩んでましたし」
ジト目で光里が詰めてくる。
「いや、それは……」
えっ、なんでこんな修羅場みたいになってるの? 彼女どころかこれまで異性の友達すらいなかったのに?
それよりも今は眼前のこの状況を何とかしないと。幸いにもさっきの言葉は周りに聞こえてなかったからセーフみたいだし。えと、えと。
「……ぷっ、秋先輩、焦りすぎ」
光里が八重歯を見せながらお腹を抱えだす。
「へっ?」
「冗談ですよ。それなのにあんなに焦って、秋先輩、可愛い」
「……っ!」
頬が一気に熱くなる。
「それじゃあ、行きましょう。人気があるお店なんで早くしないと席が埋まっちゃうかもしれませんし♪」
彼女はトトトっと小走りで行ってしまう。
あんな笑顔を見せられてしまっては怒る気になれない。ひとまず、冗談だってわかったしこの場はよしとするべきだ。
「ねぇ、秋」
「ん、どうしたの?」
さっきから黙って考え込んでいた月乃が口を開く。
「秋は光里みたいな女の子がタイプなの?」
「えっ!?」
「さっきも嬉しそうに話してたし」
「いや、その……」
「可愛いと思うんだ」
何でバレた!? そんな表情に出るタイプじゃないと自分で思ってたんだけど。
「じゃあ私は?」
月乃はまつ毛の1本1本がくっきりとわかるぐらい顔を近づけてくる。
「ちょっ!」
めっちゃ周りから見られてるよねこれ!
「うん、わかった」
時間にして数秒。彼女は何処か満足げな表情をして「行こう」と促してくる。
「あ、ああ」
唯一救いなのは光里がさっきの月乃の行動を見ていなかったことだろう。
「秋先輩、早く行きましょう」
少し先から彼女の声が届いた。
占いを信じて行動したら、人生が上向いた。 陽川 綴 @tuzuri246
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