第52話『喧々囂々』

 部室で無駄話の勢いが止まらない。そんなの無視して帰っちゃってもいいんだけど、私にも関係する話題だからスルーは困難。無駄に話を振られて対応に苦慮するいつものパターン。

 やり直しの高校生活では、ちゃんと部員同士でコミュニケーション取っておかなければという考えもあるし、メンドクサイけどあまりテキトーに受け流す訳にはいかない。

「それで、海江さんと来栖さんは、お父さんが同じ会社で働いているんだよね?元々知り合いだったの?」

 水辺さんはそう、興味津々といった感じに鼻息荒く質問する。

 ここはどう説明するのが適切なのか……。父親同士が同じ勤務先なのはそうなんだけど、来栖孝美とは文化祭で初めて会って連絡先交換したのであって、元々知り合いだったという訳じゃない。

 父親の勤務先についても民間企業ではなく独立行政法人だし、正確には会社員じゃなくてみなし公務員。まぁ、そういう家族の話なんか今まで全然しなかったし、勘違いされてもしょうがない。

「ウチの父親と来栖さんのお父さんが同じ勤め先っていうのは合ってますけど、会社じゃなく独立行政法人AI研究開発機構です。親がそういうところで仕事をやっているから、彼女もAIに興味を持ったらしくて、それ繋がりで知り合った……みたいな?」

 とりあえず間違った認識は正しておきたい。ただ、その何気ない説明が無駄話の起爆剤になってしまう。

「え、そうなの!?AI研究開発機構の人っていうことは、私たちが使っているAIの雛形を作った人ってことだよね!?それって凄いじゃない!!」

 何か無駄に水辺さんの好奇心を刺激してしまったらしく、変に興奮気味に、そう聞かれた。

「イヤ……、私の父親が仕事として、具体的に何をやっているのかは聞かされていないです。仕事の守秘義務とかありますし。まぁ、AIに関係することなのは確実ですけど」

 とりあえず無難な返答をする。実際、父親がやっている仕事に関しては情報が何も無い。現時点で分かっているのは、公共的なプロジェクトに参画しているってことだけ。

 私の父親が生存していることで、アマテラス関連のプロジェクトに何らかの影響が出ているのは確定。ただ、独立行政法人AI研究開発機構の内部事情や、個々のプロジェクト内容と進捗までは分からない。家族だからといっても父親はそういうこと話してくれないだろうし。

「そうだったんだ~、ビックリだね~♪それじゃあ、海江さんのお父さんに~、AIのチューニングとかアドバイスもらうのって難しいかな~?お仕事の話はNGでも〜、あくまでプライベートな時間に~、私たちAI研のコーチをしてもらう~みたいな~?」

 どういう訳だか、御國さんがまた脳天気なことを言う。どうしてこの人は、そんなあつかましい要望を出すのよ。

「それは難しいと思いますよ。今は色々と忙しいみたいですし。とてもじゃないけど、高校の部活にコーチなんてできないと思います」

 そう言って一蹴。考えるまでもなく、無理に決まっているじゃないの。馬鹿なことを言わないでもらいたい。こっちは大人の事情が絡んだ難しい問題を抱えて、家族ぐるみで解決策を模索している最中なんだから。

 だけど、今度は多田さんが猫なで声を出す。

「あの~海江さん、一度お父さんとお話しする機会って……、無理かなぁ?ちょっとご挨拶とご相談を……」

 この人まで、一体何を言っているのよ?私の父親と会って何を話すっていうの?

「イヤ……、多田さん、ウチの父親と何を話すんですか……!?え……!?」

 意味が分からず、質問に対して質問を返してしまった。でも、マジで意味が分からない。一体何の挨拶をするってーのよ!?えっ、何それ!?

「あらあら、女の子のお家へ行って、お父さんにご挨拶だなんて……。多田さんも意外と積極的なのね♪」

 伽羅さんは何かイヤらしい笑みを浮かべて、冷やかしている。みんなキャーキャー言って面白がっているけど、悪い冗談は止めてもらいたい。

「イヤ、そうじゃない違う、誤解だよ!?僕は理工学部情報工学科志望なんだけど、大学卒業後の就職先として独立行政法人AI研究開発機構を考えているんだよ。冗談じゃなく真面目な話。だから、海江さんのお父さんから色々話を聞きたいっていうだけだよ」

 焦った風に、そう説明する多田さん。変な意味の挨拶じゃないと理解する。この人とはそんな関係じゃないし、正直ホッとした。

「まぁ……、そういうの気になるのかもしれませんが、ウチの父親に会って話をしたとしても、有益な情報は得られないと思いますよ。仕事に関する情報は、家族にも全然喋らない人ですから」

 そう言ってやると、多田さんは少し残念そうな顔を見せる。変な期待はしないで、やりたいことがあるのなら自分の力でどうにかしてもらいたい。

「そういえば、昨日は海江さんのお母さんに会えたけど、お父さんにはまだ会ってないよね?海江さんのお父さんってどんな人なの?」

 水辺さんが唐突に、そんな質問をする。イヤ、どんな人?って聞かれてもねぇ……。

「普通の人です」

 即答。他に何も言うことが無い。

「え~?例えば~、どんな見た目してるとか~、性格とか~?お母さんの印象は~、見た目が若かったな~みたいな~?」

 御國さんが要領を得ないことを言うけど、そもそも私の父親は普通の人という印象しか無いし。顔普通、髪型普通、ファッション普通、体型身長普通、性格も温厚で無駄口を叩かない。普通の人としか言いようが無い。

「イヤ……、見た目も性格も、普通の人ですよ?別に何か特別な個性がある訳じゃ無いですし」

 間違ったことは言ってないと思うんだけど、ちょっと違和感。何かが引っかかる。

 家族として身近な存在だし、父親に対して特別な人という認識は無い。私が物心つく前から傍にいるので、すっかり慣れてしまって何も感じない。

 だから私にとっては『普通の人』という認識になるのかなぁ?他人から、客観的に見た場合は印象も違うのだろうか?

 ちょっと興味が湧いた。何か面白い反応をする可能性も微レ存。まぁ、急ぐ必要は無いし、そのうち機会があれば試してみよう。

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