第42話『恐れ』

 みんな適当にスイーツとかを注文して、ドリンクバーから飲み物を調達。とりあえず、女子会の準備は整った。

 問題は、ここからどうするか。何から話せばいいのやら。私の個人的な目的は明かせない。必然的に、表向きに言ってた部員との親睦会的な会合にするべきなんだけど、参加者として来栖孝美をどう組み込むべきか、思考を巡らせる。

 ところが、真っ先に発言したのは水辺さんだった。

「それじゃあ、海江さん主催の女子会を始めましょう!さぁ海江さん、開幕の挨拶をお願いします!」

 この人は、どうしてそう考え無しに、おかしな話を振ってくるのよ?まぁ、私がみんなに呼びかけたんだから、主催者に違いないかもしれないし、もういい加減慣れてはいるんだけどさぁ……。

「えっと……、あの……、今日は集まっていただきありがとうございます……。AI研メンバーと、今度ウチの高校を受験する来栖さんの親睦を深めようという趣旨です。よろしくお願いします」

 何を言えばいいのか分からなかったけど、テキトーにそれっぽい挨拶をした。何故か水辺さんたちに拍手をされてしまい困惑。

「それじゃあ、とりあえず乾杯しよう!ね?ホラみんな、グラスを持って!」

 そう言う水辺さんだけど、もしかして焦っている……?まだどんな人かよく分からない上、体のあちこちにケガをした来栖孝美を見て、動揺しているのかもしれない。

 AI研メンバーで最もコミュ力高い人が動揺していたんじゃ、私なんかはどうすればいいってのよ……。


 まぁ、全くノープランという訳じゃない。一応、前もってダイアナに意見を聞いて、話の流れをシミュレーションしておいた。

 でも、あくまでシミュレーション。実際に予定調和の会話が成立するとは限らない。不測の事態に備える必要はある。

 今まで来栖孝美とメッセージのやり取りを重ねて、当たり障りのない雑談には普通に応じてくれるのが分かった。

 ただ、プライベートな話題、家族の話なんかを振ると、やんわりとはぐらかされてしまう。あくまで仮定の話だけど、彼女のケガは家庭内暴力なんじゃないかと思う。

 何らかの事故であれば、時間の経過で順調に回復するだけのはず。それなのに、久しぶりに顔を合わせたら新しいケガが増えているなんて不自然。そう何度も事故に遭うっていうのは考えにくいし、学校でのいじめやトラブルであれば、とっくに親が問題解決に向けて動いているはず。明らかに問題が放置されている。

 家庭環境に問題があって、親あるいは兄弟から暴力を受けている?何の問題?それが分からないと、根本的に解決することはできないと思う。

 その話を聞き出すことができるのか、そして私は手助けできるのか、計り知れない難題だけど、やると決めたんだからやるしかない。

「それで……来栖さん、受験勉強の調子はどう?順調に進んでいる?」

 また水辺さんがフライング発言。まぁ、この人はこういう人だし。

「はい……。偏差値的には、充分合格圏内ですので……。今の調子で大丈夫だと思います……」

 来栖孝美は普通に受け答える。でも、その姿はあまりにも痛々しい。

 目の前に明らかな問題があるのに、見過ごすわけにはいかない。今すぐにでも核心へ迫りたいんだけど、焦りは禁物。

 まずは何とか場を和ませて、話しやすい雰囲気へ持って行かないといけない……というダイアナからのアドバイス。

「来栖さんは小学生の頃からプログラミングの勉強をやっているそうですよ。文化祭でAI研がやったデモンストレーションでも、結構技術的な会話ができましたし。ウチの高校に合格したら、AI研に入部希望……ってことでいいんだよね?」

 私がそう言うと、彼女は頷いた。

「はい。私もネットで配布されているAIの雛形を色々カスタマイズしているんですけど、ネットの情報だけだとまだ分からないことがありますので……。身近な人にプログラミング経験者がいなくて、ちょっと困っていたんです。文化祭の時にお話ししたことは、凄く参考になりました」

 私のアドバイスが役に立ったのなら良かった。少なくともプログラミングについては、来栖孝美の手助けになったみたいで一安心。何故だか水辺さんと御國さんも安心したような顔を見せる。

「来年になれば、海江さんにもかわいい後輩ができるのね♪先輩として、しっかり面倒を見てあげなくっちゃダメよ?私はもう、卒業しちゃうんだから」

 前回の高校生活よりは仲良くなれているけど、伽羅さんは基本的に高みの見物。異次元レベルの超有能人材だから、私たち一般人とはロジックも違うのだろうし、仕方が無いことだと割り切って考えている。



 会話の構成として、来栖孝美の受験勉強とプログラミング学習をメインに据え、プライベート領域へ踏み込む話題は極力避けた。彼女のプライベート面が一番気になる部分ではあるけど、焦って急接近したんじゃ心を開いてくれないだろうし。

 場の雰囲気は和やかに、他愛ない話ばかりが続く。焦れったい気持ちはあるけど、我慢するしかない。こちらは彼女に、一切危害を加えないことを分かってもらう必要がある。

 彼女の味方であるという意思表明、直接言葉には出さないけど、それを理解してもらえなければ前に進めないし、今更後戻りなんてできない。

 私は最悪の未来を経験し、何故か高校生からやり直す羽目になった。このループが繰り返されるなんて保証はどこにも無いし、もうこれが最後のチャンスなのかもしれない。

 次は無い、そのつもりでベストを尽くす必要がある。その為にも、来栖孝美に対する違和感と疑問を解消しなくちゃ。現在進行形で変化していく未来に、彼女がどう影響するのか分からないけど、放置していい問題とは思えない。

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