第5話 猿山

 弁当を食べた後、桃太郎は小梅に言います。

「小梅、さっき鬼に放った矢は刺さらなかったね」

「そうだった。鬼ってちょっと皮膚硬すぎない?桃太郎も刀もあまり深く入らなかったみたいだよね」

「うん。だから鬼どもの退治はなかなか出来なくて被害が大きいんだろうね」

「そうね」

「それで今度から鬼と戦う時に刀や弓などに武器、それに小梅に月白に身体に強化の術をかけようと思う。それで戦いやすくなるはずだけど」

「桃太郎、そんなことも出来るの?すごいねぇ……じゃ、やって」

「さっきは突然だったから使わなかったけど、刀も普通に討ち合ったら刃毀はこぼれしてしまうからね」

「うん」


 巾着から使う武器を出して、刀は修復の術をかけ、それから全部に強化の術を掛けました。

 試しに、小梅と月白に身体強化の術もかけてました。しばらくの間、瞬発力に攻撃力と防御力が上がります。

 刀を振り回し、弓も何本か射ってみます。すると木が簡単に切れたり打ち抜けたりしました。すごい威力です。

 ただ小梅は刀の時はいいけど、弓の時は狙いがつけにくいと感じます。

 それで小梅には刀を振るのが必要な時だけに身体強化の術をかけないようにしました。

 月白は力が漲るのを感じます。脚や口を動かし、強化の具合を実感し興奮しました。



 強化の術を確認した後、桃太郎一行は南御伽村に向け歩きます。道中他の人を見かけることありませんでした。

 鬼どもを警戒して人の往来が少なくなったんじゃないかと桃太郎と小梅は思うのでした。


 夕方になり、数件だけの小さな村に着きました。

 桃太郎は村人に声をかけ、討鬼士証を見せて一晩どこかに泊めさせてもらえないか話をしました。

 村人は吃驚して、村長のところに桃太郎と小梅をに連れて行きました。

 ここに来る途中で二人の男が三匹の鬼どもに襲われ死んだけど、その鬼どもは自分たちが討伐したと話したらもの凄く驚かれました。

 桃太郎と小梅に月白は村長の家に泊めてもらいました。


 翌朝、桃太郎は「これから南御伽村に向かう途中に鬼どもがいたら倒して行きますが、村でも気をつけてください」と言い、世話になった村を離れました。


 歩みを続けていると山の方から猿の叫び声が聞こえてきます。

 桃太郎たちは気になり、叫び声の方に向かっていると月白が鳴き出します。


「月白があの叫び声の方向から鬼どもの臭いがすると言っている。ちょっと急ごう」

「わかった」


 桃太郎一行は急ぎました。



 猿の甲高い叫び声の近くに行くと鬼の低い声も聞こえます。

 桃太郎たちは見つけました。猿の群れが石を投げつけて鬼どもが戦っています。

 鬼は五匹みたいですが、そのうちの一匹はひと回り大きくは六尺五寸(百九十七センチ)はあり、一本角が生えているのが見えます。

 

「あの一匹だけ大きいのは一つ角だ。あいつは手強そうだな……月白、お前も戦えるか?」

『はい!戦います!』

「じゃ月白に身体強化の術をかける。小梅は弓矢に強化ね」

「うん。お願い」


 桃太郎はそう言って月白と弓矢に薙刀、桃太郎自身に強化の術をかけました。

 小梅は弓矢を桃太郎は薙刀を構えます。


「僕が右に月白が左に飛び出したら小梅はここから弓で鬼どもを射ってくれ」

「わかった」

「よし。じゃ行くぞ!」


 桃太郎と月白は飛び出しました。

 鬼どもは桃太郎と月白に注意がいきます。

 そこで小梅は弓矢で鬼の胸を射られて倒れました。鬼どもはびっくりです。

 そして猿たちもびっくりします。

「おい!猿どもー!鬼退治に助太刀するぞー!」

 桃太郎はそう叫んで、鬼を一匹喉元に薙刀を突き刺し倒します。二匹目。

 月白は素早く回り込んで一匹の鬼の首元を噛みつきます。三匹目。

 不意に仲間がやられ始め残りの二匹は狼狽え怒りますが、猿たちに投石が二匹に集中してしまいます。

 そこへ鬼の首に矢が刺さります。四匹目。

 残すは一つ角の大きい鬼だけになったので、猿たちは桃太郎に当てるのはまずいと思い投石を止め戦いを見守ります。

 鬼が棍棒を横から振ってきますが、桃太郎は後に避けすぐに突っ込みます。

 しかし逆手に棍棒が返ってきて、薙刀の柄で受け止めて派手に吹き飛ばされます。

 一瞬の出来事で自らも飛んだので怪我などはありません。

 その隙に小梅の矢が背中に当たり、鬼は苦しみます。

 また桃太郎は突っ込みます。

 今度は上段から振り下ろしてきたところを僅かに避けて回転し、横腹を切り裂いたのでした。

 やがて、一つ角の鬼は倒れました。

 五匹の鬼を全て倒しました。


 周りを見渡すと猿の十匹近くが死に、八匹が怪我などしながら生き残っていました。

 生き残った小猿たちが死んだ猿たちの体を揺すりますが動きません。

 それぞれの母猿でしょうか。

 桃太郎と小梅は見るの辛くなります。


 桃太郎は猿たちに集まるように声をかけます。

「猿のみんな、こっちに集まってくれないか」

 猿たちは自分たちを救ってくれた男の言う通りに集まった。

「これから治癒術をかけるから、じっとしていてくれよ」

 桃太郎は猿たちに手をかざして治癒術をかけます。

 猿たちは体が温かくなり回復してびっくりしています。

「みんな、大丈夫かな?」

『『『はい。大丈夫です』』』

「よかった。あっ、僕は動物たちの話解るから、みんなの言っていることも解るからね」

 猿たちはびっくりします。

「多くの仲間が死んだのはとても残念だろうけど、残った者たちは元気にいてくれよ」

『『『ありがとうございます』』』

「死んだ猿たちはどうするかい?人間は死んだ時に火で焼いたりして埋めるけど」

『では穴を掘って埋めてあげます。多くの仲間が烏についばまれるのは見たくないです。鬼どものは烏にやりましょう』

「わかった。じゃみんなで穴を掘って埋めよう」


 そして、みんなで穴を掘り死んだ猿たちを埋葬しました。

 埋葬が終わる頃、日がだいぶ暮れてきました。

 猿たちが言うには近くに洞窟があるとのことなので、今夜はそこで寝ることにしました。

 猿たちとも一緒にご飯を食べました。

 桃太郎と小梅は初めての野宿です。巾着から布団を出して寝たのでした。

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