桃太郎異伝 〜桃太郎と小梅〜

流雪

第1話 邂逅

 むかしむかし、相里村あいざとむらにお爺さんとお婆さんが住んでいました。

 お爺さんの名前は宗十郎そうじゅうろう、お婆さんの名前はおちよ。

 子供はおらず、一軒屋に二人で暮らしていました。

 

 夏のある日、お爺さんは山へ柴刈りに行き、お婆さんは川で洗濯をしていました。

 川でお婆さんが洗濯をしていると籠が流れて来ました。

 お婆さんは近くにあった木の枝を使って籠を近くに手繰り寄せて、中を覗いてみると赤ん坊が眠っておりました。

 お婆さんはびっくりです。

 籠を引き揚げてすぐに家に運び入れ、籠から赤ん坊を抱き上げるとその子は泣きはじめました。


「おやおや。目が覚めたんだね。おしめ替えなきゃね。それとおっぱいもあげなきゃね」


 お婆さんは泣いている赤ん坊を抱えて、近くで畑仕事をしている若い夫婦の家に行ったのでした。


「おはよう。おみつさんいるかい?」

「お婆さん、おはようございます。その赤ん坊どうされたんですか?」


 おみつさんは自分の娘におっぱいをあげていたら、お婆さんが赤ん坊を抱えて来たのにびっくりしました。


「さっき川から籠が流れて来たんだけど、その籠の中にこの赤ん坊が入っていたんだよ」

「えぇ…」

「悪いけど、この子のおしめを替えておっぱいを分けてあげてくれないかい?」

「それはいいですけど、この子の親は?」


 そう。赤ん坊が勝手に籠に入って川を流れてくるはずがありません。


「誰かが川の上流からこの子を流したんだろね。何か危ないことがあるといけないから、村の男達と一緒に見に行ってみるよ」

「見に行くのはいいけど、お婆さんも?」

「もし母親がいたら男だけじゃ話辛いこともあるだろ?」

「そうですね。気をつけて行ってください」


 お婆さんは赤ん坊をおみつさんに託し、村の男の人達に声をかけて大勢で川上に行きました。


 

 しばらく川沿いの道を上流に歩いていたら、女の人が倒れていました。

 体を揺すったり声をかけてみますが、返事がありません。

 すでに女の人は死んでいたのでした。


「あの赤ん坊の母親ですかね?」

「さぁ、どうだろうなぁ」

「村の近くでは全く見ない人ですね。どこの人なんでしょう?」


 体のいろんな所に引っ掻き傷があり、足元も酷い汚れと傷がありました。

 かなり山の中をかなり彷徨った感じでした。


 すると、柴を背負ったお爺さんがやってきました。


「みんな、なにごとじゃ?」

「あっ、お爺さん」


 お婆さんはこれまでの経緯を話しました。

 お爺さんはビックリしました。


「お爺さん、この人知っています?」

「いいや、知らないなぁ」


 実はお爺さん、若い時は凄腕の剣士でまた何人も有名な剣士を育てた有名な師範でもありました。

 お婆さんはもしかして、お爺さんを頼って村まで来たのかと思ったのですが、知らないみたいです。


 みんなで亡くなった女の人に合掌しました。

 お婆さんは女の人が何か身元がわかるような物を持っていないか探したけど何もありませんでした。

 みんなで女の人を埋葬し、みんなは村に帰りました。

 赤ん坊のいるおみつさんの家に行くのでした。



「そうですか。川上で女の人が死んでいたんですね」


 おみつさんは赤ん坊をあやしながら、帰ってきた人達に言ったのでした。


「おみつさん、今この村で赤ん坊がいてお乳をやれるのは貴女だけだ。悪いけどこの赤ん坊を乳離れする時まででいいから面倒をみてはくれないかい?」

「それはいいですが、その後はどうするんですか?」

「さっき、お爺さんと話したんだけど、私たちが一緒に育てるよ」

「わしらには子供がいなかったからね。育ててあげたいんだよ。村のみんなもいいかい?」


 おみつさんと村の人達は二人のお願いを受け入れました。

 そしてみんなはそれぞれの家に帰りました。



 お爺さんとお婆さんは帰宅して、改めて赤ん坊が入っていた籠の中に何か入っていないか見てみることにしました。

 籠の中は痛くないように服が敷き詰められ、桃の花が咲いた木の枝と巾着が入っていました。

 桃の花にちなんで赤ん坊は桃太郎ももたろうと名付けられるのでした。

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