第5話 姉と妹
「キャスリーン、久しぶりね」
「お姉様、お会いしたかったですわ。こちらは婚約者のクリス・ラッセル・マクミラン様です」
お姉様が連れて来た第四王子夫妻を紹介する前に、クリス様を紹介する。お姉様の目が、大きく見開いた。
「……いつ、婚約したの?」
「先週です。一刻も早く婚姻を結びたいと伺いましたので、書類もご用意しております。キャスリーン王女が、是非ジェニファー様にも証人になって頂きたいと仰っていました」
クリス様が書類を渡すと、お姉様が探るようにクリス様を見る。
「どうやって、用意したの?」
「あちこちに知り合いがおりますので」
ニコニコと笑いながら第四王子夫婦に笑いかけるクリス様は、なんだか迫力がある。
「姉上、我々が出張る必要はなかったのでは?」
「良いじゃありませんの。大切なお姉様の為ですもの」
穏やかに笑う第四王子夫婦の本心はお姉様に借りを作れて良かったと思っているのではないかしら。お姉様は面白くなさそうな顔をしているわ。
お姉様の手が震えている。婚姻届を破りたくても、神殿のマークがある用紙は破れない。
「では、是非証人になって下さい。すぐに提出しますので」
クリス様が淡々とお姉様達にサインを迫ると、お姉様がわたくしに質問をした。
「キャスリーンはこれでいいの?」
「はい。わたくしはクリス様を愛しているのですわ。それに、お父様とお兄様が証人になるくらい、彼は優秀ですわ」
王族は、愛だけで結婚できるわけではない。お姉様はいつも、そう言っていたわ。
縁を結んだ以上、全力で夫を愛するわ。そう言って結婚したお姉様は、たくさんの子を産んで愛されている。
わたくしも、お姉様と同じように夫を愛するつもりだった。だけど、夫はわたくしに近寄りもしなかった。そんな時、いつもクリス様の事を思い出していたわ。
「そう。貴女が幸せならそれで良いわ」
お姉様はそう言って、書類にサインをしてくれた。続いて、第四王子がサインをしてくれる。
「クリス、だったわね。キャスリーンをよろしくね」
「全身全霊をかけて、キャスリーン王女を……いえ、キャシィを守ります」
騎士の誓いをするクリス様は、とてもとてもかっこよかった。クリス様はすぐに書類を出しに行き、お姉様達と歓談した。
ビオレッタと引き合わせると、みんなビオレッタを可愛がってくれた。第四王子が、じっとビオレッタの目を見ていたのが気になったけど……それ以外は穏やかな時間が過ぎていったわ。
歓迎の宴を行い、わたくしとクリス様の婚姻が発表された。クリス様は、王家に婿入りする事になった。
最初はピーター様のご提案通り、クリス様が新たな家を興す予定だった。だけどお姉様がお兄様とお父様と話し合い、クリス様に婿入りして頂く事になったのだ。
クリス様は、王族になった。
お姉様の提案が、ビオレッタを救ったと分かるのはもう少し先の話。お姉様の慧眼には、感謝しかないわ。
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