第8話 物はしょせん物
「マリー! 会いたかったわ。お願い、少しビオレッタを頼める?」
「もちろんです。ああ……ビオレッタ様、とてもお美しいですわ」
「あーう。あぅ」
不機嫌になっていたのに、嬉しそうにマリーに抱きつくビオレッタ。これだけで、マリーがどれだけビオレッタを大切にしているか分かる。
宰相が、大慌てで控室にビオレッタのおむつや着替えを用意してくれたので王族の皆様を引き連れて控室へ行く。ビオレッタのおむつを変えて着替えをしないといけないの。
いっそ離宮に連れて行こうかと思ったんだけど、仕方ないから宰相の誤魔化しに乗ってあげるわ。
お母様はビオレッタから離れないよう頼んだけど、他の親しい王族の方々もビオレッタから離れない。
もしかして、みなさん予想以上に怒ってらっしゃる?
「あ、あの……どうしたら……」
マリーが居心地悪そうにしてるわ。
「ごめんなさい。気にせずいつものように世話をして。そうだわ! マリー、またビオレッタの乳母になってもらえる? ビオレッタがもう少し成長するまで、ずっとビオレッタと一緒にいて欲しいの。雇い主はわたくし。それでどう?」
「は、はい! 喜んで!」
「あ……あの、マリーの雇い主は国王……」
「陛下はお忙しいもの。いちいちお伺いを立てていたらご迷惑でしょう? それに、陛下は側妃様と仲良くしてどんどんお子を産んで頂かないと。わたくしは無理だから、側妃様に頑張って頂きましょう。わたくしは、ビオレッタがいれば良いわ。だからね、マリーはわたくしが雇うの。さっき聞いてたから分かると思うけど、本人の許可は取れてるわ。ねぇ、なにか問題がある? ……問題ありそうなら、お母様をわたくしの部屋に呼んで、ゆっくり話し合いしましょ」
笑顔で脅すと、宰相は慌てて頭を下げた。
「……問題など、一切ございません! どうぞ、王妃様のお望みのままになさってください!」
わたくしを王妃と呼ぶのね。宰相の態度が、さっきと全く違う。
「国として?」
「はい! 国として!」
宰相は、少しは頭が回るみたいね。あんな国王でも今までお父様を騙せたのは、この人の力も大きいのかもしれないわ。
にっこり笑うと、宰相の顔色がどんどん悪くなっていく。ふふ、ちゃんと自分達の立場を分かってるみたいね。
「じゃあ、里帰りするわ。今すぐに。荷物はビオレッタの物だけで良いわ。だってわたくしの物は……」
「すぐに! すぐにご用意します!!!」
慌ててわたくしの言葉を遮るのだから、宰相は知ってるのね。わたくしの荷物が、書籍以外全て取られてしまった事を。
あの馬鹿国王は、お父様やお母様が来る時だけ、わたくしのドレスやアクセサリーを持って来る。
あれが着れるのは、高貴な身分の人だけ。貴族では派手過ぎて浮いてしまう。きっと側妃様の物になってしまったのでしょうね。
ま、物はしょせん物よ。大切な物もあるけど、取られても構わない。代わりに、何よりも得難い物を頂いたから。
わたくしは、ビオレッタがいればそれで良いわ。
それにね、わたくしから奪った物がそのうち大きな瑕疵になるわ。じっくり、時間をかけて対価を支払って頂きましょう。
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