私の好きな人について

おぞん

第1話

 ————先輩、好きです。大好きです。尊敬してます。

いつも笑顔なとこも、ちょっとチャラチャラしてるとこも、女の子たちに愛想振りまいてるとこも、…実はそれがビジネスなとこも、隠れ毒舌なとこも、ぜんぶ、大好きです。わたしなんかみたいな可愛くない性格の後輩にまでよくしてくれるとこも好きです。たとえ、先輩にとって私が、どこか昔にちょっと接点を持った数多の後輩のうちの1人だとしても。みんなに私みたいな態度を取ってるって知ってたとしても、大好きです。

声も好き、顔も好き、歩き方も好き、制服の着崩し方も好きです。笑う時に目元がくしゃっとなるのも大好きです。全部好きでした。ずっと。今も好きです。大好きです。—————





————おか!—————————岡!

 「月岡!」

 「…はいっ!?」

 「聞こえてるのか!またか、お前は…!!最近、授業に集中してないだろ。…まさか、内職でもしてんのか?」

 「し、してませんよ…(広義にはしてるんだけど…)」

 「…とにかく、授業はしっかり受けなさい。次からは成績落とすからな??」

 「…はい……」


 クラスメートのくすくす笑う声が聞こえてくる。…聞こえてるからね?あんたたち。

…また悪目立ちするなんて、ほんとやらかした。

 また、のこと考えてたせいだ。


————————————————————


 月岡愛莉、16歳。特に変わり映えのない容姿と、素直でない性格のため、友達は少ない。継続することが苦手で、小中高と部活動を転々としている。他に特筆するところはない。

 

 白石葵、18歳。光属性。誰にでも屈託のない態度と、美青年と揶揄される容姿と、そこそこ勉強ができる、少女マンガのヒーローを3Dにしたような人物のため、友達が多い。特筆すべきは、その伝説の数々。「常に(かわいい)女子数人を侍らせている」とか、「誰にでも優しすぎて彼と付き合った女子は全員メンヘラと化す」とか、「学校の、のべ三分の一の女子(先輩後輩含む)に告白されている(今も更新中)」とか、嘘のようでホントの逸話を今この瞬間も更新し続けている。

しかも、実は誰にでも優しい王子様キャラは素ではなく、仲良くなって素顔を知った瞬間に沼る女子も多い。———そういう女子ほど彼に、「どうでもいい判定」をなされていると言えるが。

 


 そんな、こと、白石先輩は、私、月岡愛莉が中1の時から足掛け四年恋してきた人である。

 

 「———先輩、好きです。(以下略)」

 そうやって気軽に言えたらどんなに良かっただろう。私は生憎、そんな、少女マンガのヒロインのような健気さと素直さは持ち合わせていない。名前負けも甚だしい。到底無理だ。きっとこのセリフは、

「先輩、また女の子のことたぶらかしてるんですか?これだから学校一の女たらしは…」

「先輩、私は先輩のこと一応尊敬してますが、『そんな』風にはなりたくないですね」

…と変換されてしまうのだろう。我ながら酷い。ツンデレのデレはどこかに捨てていったようだ。心の声は心の奥で噛み殺して、真逆の態度を取るなんて。…でも

「まーた、そんなこと言ってんの?俺があんまモテてるから妬いちゃってるんだ?」

「尊敬してるの?ありがとー!俺が中学の時から見てきた愛莉に言われるなんて嬉しいな」

 先輩はきっと、屈託のない笑いとともにそんな言葉を返してくれるんだろう。…妬いてない。そんな資格私にはない。尊敬してるのは本当だが、「『そんな』風に」以下からは、先輩には届いてないようだ。…第一、「中学の時から見てきた」とか、特別感をいつも出してくるけど、同中から進学してきた同級生にも同じこと言ってるの、わかってるから。いくら嬉しくても、舞い上がるな私。

 …想像の先輩にもそんなことを考えるなんて、我ながらどうかしている。だけど、…そんな風に、勝手に恋心を募らせても、先輩は困るだけだ。


—————「俺さぁ、あんまり自分にキャーキャー言ってくる女子興味ないんだよね」

 偶然、聞いてしまった、先輩への告白シーン。相手は先輩と同学年で、特に先輩と仲がいい(よく見える)で有名な、学校のマドンナだった。傷ついた顔で駆け出す彼女。対して先輩は、特に表情もなく、引き留めもしなかった。…ああ、先輩は、自分に興味のある人は好きじゃないのか。


 4年積もった恋心。でもそれを先輩に知られたら…あの時の顔が目に浮かぶ。

 どんな風に拒絶されるんだろう。もう話してくれないだろうか。…そう思ったら、怖くて。…他の女子と同じになってはいけない。キャーキャー言っちゃいけない。自分の気持ちを隠さなきゃ。いっそのこと、真逆の態度を取った方がいいんだろうか…


————————————————————


「ねえねえ、あの先輩、また女子と一緒だよ?…愛莉、中学一緒でしょ?知り合い?」

「…ん、まあ…ね。でも、あんな人、女たらしなだけだよ?いつもそれっぽいこと言ってるし。由衣も気をつけてね?」

「ん、わかったわかった。ま、愛莉なら学校一の女たらしに恋するほど無謀じゃないか。私たちの学年にはもうファンクラブできたって聞いたけど。…ほら、あそこにいるの、そうじゃない?」

「はは、すごいね勢いが。でも、…あんな、叶わない人追いかけて、何が楽しいのかわかんない…」


 これは、自分に言い聞かせるセリフでもある。先輩を追いかけたところで叶わないのに、結局傷つくだけなのに。…でも、抗えない魅力が先輩にはある。

 …ごめん、親友。私はもう、そっち側の女子になってる。他のみんなが好きになる、ずっと前から。…でも、隠さなきゃ、先輩困っちゃうから。あなたにも言えない。


 隠そう。幸い、元々私は可愛い性格をしていない。先輩の近くに居られるなら、全く可愛げがない後輩でも、構わないから。





—————これは、素直になれない(なりたい)後輩と、女たらしの先輩との、恋のお話。

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私の好きな人について おぞん @mizumizu0705

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