地縛霊
半チャーハン
地縛霊
僕は、生まれつき霊が見える体質だ。
めんどくさい霊に絡まれることもしばしばあるから、話しかけられないようになるべく下を向いて歩いている。
「ねえ君、中学生?」
だけど今日は、そんな話しかけるなオーラを出しまくってる僕に、気安く声をかけてくる霊がいた。
いやいや顔を上げると、ガリ勉ぽい雰囲気を纏う、頬のこけた不健康そうな青年が目をギンギンさせて立っていた。なるべく関わりたくはない。
「はぁ、まあ」
何年もこの体質と付き合っていると、そいつがどういう種の霊なのか何となく分かってくる。
たぶんこいつは、地縛霊だ。自分が死んだことを理解できず、ずっとその地に留まり続ける。
青年は、ぐいっと僕に顔を近づけてきた。
「私のこの目が見えるかい?」
「まあ、はい」
青年は、悔しそうに拳をグググっと握り込むと、思い切り息を吸い込んだ。
「私は、合コンで『どこ大?』と聞かれたときクールに『東大です』と答えるため、高校時代、必死に勉強をしてきた!努力をしてきたんだ!」
一息にそう言うと、青年はハァハァと肩を上下させる。なんだこの人。
「なのに、なのに・・・。入試の日、残り時間が僅かな中、最後の問題を解こうとしたとき、突然全てのシャープペンシルの芯が詰まってしまったんだ・・・。あの一問が解けていたら、私は今頃東大でキラキラした生活を送っていたはずなのに!!クソォォォ!!!」
「・・・ご愁傷様です」
何となくその後は察しがつく。
「自己採点をしてショックを受けた私は、心を落ち着かせるため夜の散歩に出た。そしたらトラックが突っ込んできて、このザマさ。しかも、異世界転生もできなかったんだ!せめて、異世界で美女を付き従え、無双したかったぁぁぁ!」
「そうですか。では」
あまり厄介なことには関わりたくない。僕は、軽く会釈してその場を立ち去ろうとした。
「待てい!」
青年はビシッと僕を指さす。
「君は、さっき私の目を見たな。私と見つめ合った者は、試験で五分前に最後の問題に取り掛かろうとすると、全てのシャープペンシルの芯が詰まってしまうのだ!君も私と同じ絶望を味わうがいい!ハハハハハハハ!!」
「・・・そうですか。では」
今度こそ、青年のもとから立ち去る。
「余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ!ハハハハハハハハ!!」
背後で、地縛霊の狂ったような笑い声が響いていた。
あれから数日が経ち、さて今日は中間テストの日だ。あの地縛霊の言葉通り、ラスト五分前に全てのシャーペンの芯が詰まった。いくら振っても、カチカチしても、芯は出てこない。
僕は、鉛筆で最後の解答用紙を埋めた。
その日の下校途中、また地縛霊の青年が現れた。
「フッ、試験はどうだったかい?」
ニヤニヤと唇を歪ませて、青年は尋ねる。イラッとする顔に思わず真実を伝えそうになったが、寸前で呑み込んだ。
「ダメだったよ。シャーペンの芯さえ詰まらなければ・・・」
眉を寄せ、口をへの字に曲げて、めいいっぱい悲しそうな顔を作る。
「そうかそうか!!ハハハハハハハ!!!」
地縛霊の青年は、満足そうに頷く。彼の体が光に包まれ、煌めきと共に消えていった。
地縛霊 半チャーハン @hanchahan
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