元悪の組織の怪人が異能力バトルなどに巻き込まれる話(旧題:世の中いろんなヤツがいる)
外套ぜろ
プロローグ 雨の日のこと
——雨が、降っていた。
「おい、まじかよ」
目の前の光景に、思わず青年は透明のビニール傘を取り落とした。
空から降り注ぐ幾多の雫が、立ち尽くす青年の体を濡らす。
彼の体を覆うくすんだ毛は、暗い水を吸って、ずっしりと重たくへばりついていた。こうなるのが嫌だったから傘をさしていたことなど忘れるくらいには、青年は呆然としていた。
体のところどころで生物らしくなく不自然に鈍い光を放つ鎧のような箇所の表面を、落ちた雨粒が次々と流れていく。
彼の姿は、紛うことなき「異形」だった。
「……参ったな」
呆然とそう漏らして頭を掻く彼の前には、かつて彼の職場だった瓦礫が散乱していた。
抉れた壁は横倒れとなって壁の役割を失い、照明に使っていた高そうなシャンデリアはガラス片となり果てている。地に伏せた趣味の悪い看板は、雨の生んだ泥にまみれ、見るも無残だ。
ここは、彼の体を改造し、彼に強大な戦闘力と獣の姿を与えた場所。
盆の休みで実家に帰省し、一週間ぶりに出勤したらこの有様である。
何だかやけにたくさん仕事関係のメールが来るとは思ってはいたが、せっかくの休暇だからとメールを全部スルーしていたのだ。
おかげでしっかりと先祖の供養ができた。というのは嘘で、怠惰な長期休暇を満喫していたわけだが。
もちろん、怠惰な日々を名残惜しく思う彼に溜まりに溜まった仕事連絡を読む気はなく、とりあえず顔を出そうと見切り発車で出勤を決意。山に入って人目につかないところまで来てから
しかし、まさか職場が壊滅しているとは思わなかった。
一瞬ドッキリを期待するが、それらしき気配も、においも、音もない。そこにあるのは、一層強くなった森の独特のにおいと、降りしきる雨の静かな音だけだ。
どうやら本当に、彼の職場は滅んでしまったようだ。
「やるなあ、
他人事のように呟いて腰に手を当てる怪物。
しかし、そんなことに感心している場合ではない。
職場の喪失、それ即ち……収入源の喪失である。今この瞬間、青年は無職二十代男性へと成り下がったのだ。
それはまずい。非常にまずい。
「——」
彼がおもむろに小声で何かを呟くと、彼の姿は普通の人間のそれへと
平均を絵にかいて、眼差しの生気を根こそぎ抜いてやったかのような風貌。紺色のTシャツに、少し汚れたジーンズ。先程の異形の容姿とは打って変わり、街中ですれ違っても二秒で記憶から消えそうな、どこにでもいるだろう雰囲気の青年だ。
「仕方ない。仕事探すかぁ……」
面倒くさそうにそうぼやいて、彼の今後を表すかのように酷く
八月十七日水曜日。
この日、世界征服と新人類創造を目論んだ悪の組織、秘密結社“
——壊滅した。
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