価値観は人それぞれ

 問題です。でけでん。

 紫色で粘性のある液体とはなんでしょう。

 はい、正解はニケちゃんがかき混ぜているお薬です。

「ふ、ふふ、ふふふ」

 怖い。色々な意味で怖い。

 どうしてそんな色なの?どうしてそんなに粘りが強いの?どうしてニケちゃんは笑っているの?そもそもお薬なの?誰に使うの?まさか飲む物じゃないよね?

 あれは絶対に機嫌がいいとかそういう笑いじゃない。狂気を感じるもの。目が怖いもん。

 前から自作の薬を調合する事はあったけど、これはもっとアブナイ代物を用意しているとしか思えない。

 ……聞いた方がいいのかなぁ。それとも静かにしてた方が安全かなぁ。……逃げるのは……駄目だよねぇ。……よし、訊こう。

「ねえ、ニケちゃん、それ、何作ってるの?」

「黙るのです」

 あれ、やっぱり黙ってた方が良かったのかな。

「これは持たざる者を救う薬なのです。持っている者には関係無いのです」

「そう、なんだ」

 なんだか聞いたことのある言い回し。ああ、あれだ。胸の……え?

「それ、もしかして胸を大きくする薬とか?」

「似たようなものです」

 やっぱり。

「うーん、前も思ったんだけど、何かあったの?ニケちゃんってそういうの気にする感じじゃないよね?」

 むしろ、そういうものの有無で価値を決めるとか馬鹿馬鹿しいとか言ってのける子だと思う。

「本で読んだのです」

「本?」

「女の価値は胸の大きさで決まるそうです」

 なにその極論。初めて聞いたんだけど。

「モモには価値があって私には価値がないのです。不公平です。私も価値のある女になるのです」

 ニケちゃんって、たまに物凄く胡散臭い情報を信じるよね。この場合は胡散臭いというよりは偏りすぎた意見だけど。略して偏見。間違ってると言い切れない辺りが面倒くさい。

「それで薬を作ろうと。……ちなみに、効くの?それ」

 水分が飛んだのか、辛うじて液体だったものがほぼ固体と化している。見た目の割に臭いがしないのが逆に不気味です。

「あるんじゃないですか?効果がありそうな物を手当り次第に混ぜただけですけど」

「……それ大丈夫なの?」

「毒は入れてないですよ」

 と、怪しげな物体を匙で掬って私の方へ向けてくる。

「え、なに?」

「まずは動物実験です。ほら、口を開けるのですよ、モモならお腹壊さないですよね」

「え、動物扱い?飲まないよ?」

 とりあえず、ニケちゃんにはゆっくりとでも認識を改めてもらおう。私の身が危ない。

 お薬はしっかりと処分させて頂きました。

 こんなの無い方が世のためです。

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