水濡れ厳禁?

「ほら、力抜いて」

「無理です駄目です壊れます」

「大丈夫だって。慣れると気持ち良くなるから」

「やー、やー!いやー!!」

「……そんなに嫌がらなくてもいいのに」

 あと一歩という所で腕の中のニケちゃんが暴れ出す。

 いつもより露出が多いせいか、何処に引っ掛かることなくするりと抜け出されてしまった。

「せっかく着替えたのに」

「それはモモが嘘ついたからです」

「嘘はついてないよ。『最近暑いから薄着してみない?』って誘っただけだし」

 そう、嘘はついていない。暑くなってきたのは本当。今着ているものも『薄着』であるのも本当。ただ、その用途をニケちゃんが知らなかった事を知ってて黙ってただけ。あとついでに目的地も隠してました。

「嘘つきじゃないなら詐欺師です。そのうち私をどこかに売り飛ばすつもりなのです」

「流石にそんなことしないよ……。というか、海に連れてきただけだよ?」

 そう、海だ。この大陸には珍しい広い砂浜に私達はいる。

 実はここ最近の旅路は、この海岸に向かうように、かつ海を見た事がないというニケちゃんに気取られないように、少しづつ迂回しながら移動していたのだ。

 それは何故か。遊びたかったから。

「海なんて人が立ち入る所じゃないです。水で塩なんですよ。飲むと死んじゃうんですよ。毒がいっぱいで沈んじゃうんですよ」

「うん、ちょっと落ち着こうね」

 初めての海だからか、軽い恐慌状態に陥っているニケちゃんをなんとか宥める。

 嫌がるかなぁとは思ったけど、ここまでとは思わなかった。

「モモは知らないんでしょうけど、私達は塩水に浸かると溶けるのです」

「そんなナメクジみたいなこと言わないで、ほら」

「い、嫌です」

 ニケちゃんは逃げ出した。しかし私が回り込んだ。

「み、水に濡れると壊れちゃうのです。力が抜けるのです。萎んじゃうのです」

「ニケちゃんお風呂とか好きじゃない」

「そ、それとこれとは「はい捕まえたー」」

 捕獲、そしてくるくる回ってー、かーらーのー、投げ!

「う、ひゃわぁぁあ」

 普段は出さないような声を上げながら、ニケちゃんは海の中へ飛び込んでいく。

 水しぶきが静まって数秒後、ニケちゃんが水中から顔を出した。怒ったような落ち込んだような、もしかすると恥ずかしいのかな、といった複雑な表情。

「モモに汚されました」

「なんでさ」

 とりあえず笑ったあと、私も海に駆け込んだ。

 思いっきり遊んだ。

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