あっちとこっちの はざまの森で

千賀まさきち

:プロローグ


 両親のケンカなんて、いつものことだと思っていた。



「何も分かってないくせに、文句ばかり言うな。外で働いてもいないくせに」

 そう言って、母さんを怒鳴りつける父さんと。


「何よ。私はあなたの召し使いじゃないわ」

 そう鳴き喚いて、父さんをなじる母さんと。


 遠くから聞こえる二人の声を、聴きたくないと布団に包まりながら、それでも耳をそばだてて、こんなケンカなんてあまりにいつものことだから、どうせいつものように朝になれば、目が覚めれば「普通」に戻っていると思っていた。

 少しぎこちないけれど「いつも通り」の母さんと父さんに。


 けれども今回、そうはならなかった。



 春の日差しがやさしい、とある休みの日。



 そんな日に、母さんと父さんは離婚した。

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