第4話 崖を降りれば良いんだよ
頂上から見るンナードオーヴァの光景は、圧巻の一言。スカイツリーから地上を見下ろしたみたい!
誘惑の森だっけ?
それで辺り一面緑色で、本当異世界物のアニメの世界。
高い建物が無いだけで、風景ってこんなに印象が変わるんだ!
眼下ではリュべが青色の髪をなびかせながら私を見上げている。その表現は驚きに満ちていた。
「さて、降りないと!」
すっかり気が大きくなった私は、声を張り一度伸びをする。
スゥ……と息を吸い、今度は勢い良く崖を駆け下りる。
「そうか、これなら……!」
この力があれば、あの崖を駆け下りられる。
王宮にも行ける。褒賞戦にも出られる。リュべのお母さんの病気を治せるかもしれない!
「っ!」
そう思ってたら油断して足がもつれた。
崖まで後1メートルと言ったところで、身体に急に重力が戻って来る。
「きゃ!」
ドスン、と足から着地する。
1メートルだったからそんなに衝撃は無かったけどヒヤッとした。
「こっわ……」
「凄い! エリカ凄いよっ!」
ふう、と息を整えている私の元に、リュべとレジェムが駆け寄って来る。
「えへへ、本当凄いよね。私もびっくり。この力を使って私がリュべをおんぶして崖を降りて、城下町にも行けば間に合うって事だよね?」
はい! とレジェムが勢い良く尻尾を振る横、「え」とリュべの頬が強張った。その表情は明らかに、怖がっていた。
うん。
怖いとは思うよ。幾らお母さんの為とは言え、怖気づくと思う。
でも。
「リュべ、行こう! 私は結局テルルネ様に会わなきゃなんだから、リュべが行かなくても行くよ!」
青色の瞳を見ながら訴える。
「で、でもさ……もし落ちたらどうするの? エリカは走れば良いかもだけど……」
リュべは明らかに怖がっていた。声も震えていて泣きそうだ。
確かに怖いと思う、けど。
「大丈夫! 紐で固定すれば落ちないよ。リュべ痩せてて軽そうだし。私妹を良くおぶってるから慣れてるよ? さっきの見たでしょ?」
にっこりと笑いかけ、ひんやりした痩せた手を握り締める。
手を握るって凄い効果ある行為。
私も試合前に友達にやって貰うと落ち着く。
「そうかも、だけど……」
だからか、泣きそうだったリュべの手の震えも次第に治まっていく。
「でも……僕、ここを降りるのは……無理……」
リュべ、と目の前の少年の名前を呼ぶ。
「諦めないで。大丈夫、私も一緒に頑張るから!」
「エリカ……」
握った手を更に強く握り締める。不思議と人に言うと、自分も頑張れそうな気がした。
青い瞳が一瞬不安そうに泳ぐ。
けど。
それは一瞬だった。すぐに力強く頷かれ、握った手を力強く握り返される。
「う、うん! じゃあお願いね!」
しっかりとこっちを見てくる目に迷いはない。
「まっかせて!」
自然と私も胸を張って返していた。
「ではレジェムは先に崖下で待ってますね〜」
話は終わった、とばかりにレジェムは言い、すっと崖下に降りていく。
リュべと私の2人だけになった崖上にぴゅっと強い風が吹いた。
「抱っこ紐にするから丈夫な蔓を召喚してくれる?」
隣を向き言うと、リュべが早速片手を前に差し伸べる。
「ンナードオーヴァにようこそ!」
差し伸べた手が発光した次の瞬間、リュべの手に太くて濃い緑色の蔓が現れる。
「わっ凄い!」
思わず拍手していた。
落ちこぼれ、って言われてたし心配だったけど、植物なら本当に得意みたい。
拍手に照れているリュべから蔓を受け取り、叔母さんが従弟に付けている時の事を思い出しながら固定していく。
背中にリュべの温もりを感じた時は少し気恥ずかしかったけど、思っていた以上にリュべは軽くてガリガリで。
お母さんが病気できっと大変だったんだろうなあ……。
何としても褒賞戦に連れて行きたいという思いが強くなる。
「おしっ、行こう!」
準備が終わり崖際に立つ。
誘惑の森が一面に広がっている光景に、ゴクリ、とリュべが唾を飲んだ。
「えいっ!」
スッと息を吸い、勢い良く崖を駆け下りた。
崖って直線だと300メートルくらい? 意外と短距離。
「うわああぁっ落ちる!? うわああああああー!!」
でも、リュべが情けない声でわあわあ喚いている。
「だいじょ――うぐっ!?」
一喝しようと思ったけど出来なかった。
怖がったリュべに思いっきり首を締められたから。
「っ!!」
動揺したせいで足がもつれた。
崖を走る事が出来なくなって、真っ逆さまに崖を落っこちていく。
「やっ、落ちる落ちる!! 無理!!」
「うわあああああああ!!」
また走り直せば良いんだろうけど!
森がどんどん近くなってるのに、そんな余裕なんてどこにもない。
私も叫んでいた。
「やあああああああああっ!!」
もしかしてこのまま地面に落ちてしまうのかな!?
死ぬ死ぬ死ぬ!!
異世界で死んだらどうなるの!?
一生懸命走り直そうとしてるけど、難しくて出来ない。
「た、助けてっ!!!!」
怖い。
気付けば私は泣いていた。
「助けてー!! れ、れじぇむーっ!!」
ぼろぼろと涙が溢れてくる。
そうだ、レジェムだ。
崖下で待機しているレジェムなら、きっと助けてくれる。
「エリカ……っ!」
そんな取り乱しだした私を見て。リュべは逆に叫ばなくなった。
ガチガチ歯を鳴らしてるし、本当は誰よりも叫びたい筈だろうに。
「助けてーーっ!!!!」
茶色い地面が見えてきた時。
「っ大丈夫! 僕に任せて!!」
リュべがいきなり大きな声を上げた。
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