第2話 誤召喚された!?
だって――ロディアッタの前に、羽の生えた白いライオンが出現していたから。
それを見た周囲の子達から「さすがロディアッタ!」「わっ、羽だ!」「合格!!」と歓声が上がる。
「ふむ、これは飛行タイプの召喚獣だな。学校で習った事があるよ、このタイプを子供が召喚するのは難しいと。それを召喚してしまうとは流石俺……これは褒章戦も俺が優勝かなあ? 優勝したら何をお願いしようかな〜? やっぱり金かな〜?」
むふふっと笑うロディアッタに品はない。
「当然俺は合格だ。この地域の子供達はリュべ以外飛空庭に乗れる、っと!」
ロディアッタは声高らかに言い、ニヤリと笑みを深める。
今何が起きているか知りたい。もう黙っていられなかった。
「ねぇさっきから何の話をしてるのっ!?」
「っ……」
私が突然喋ったからかリュべは一瞬ビクついたものの、結局は何も反応せずただ俯いていた。
周囲の子がリュべに詰め寄る私を見て、クスクスと笑っているのも、また混乱を誘う。
「そもそもなんで昼なの!? さっきまで夜だったし道路だったよね!!」
泣いているリュべの顔を覗きかけた時だった。
「それにはレジェムがお答えします〜!! 皆様ちょっとお待ちを〜!」
頭上から幼稚園児みたいな声が聞こえてきたのは。
一体誰が、と顔を上げ――またもや固まった。
「!?」
頭上に居たのは、空飛ぶピンク色の小犬だったから。
う、浮いてる!? 喋ってる!?
「こんにちは! レジェムは、この地域の子供を王宮に案内する為に造られた魔法生物です〜」
つぶらな黒い瞳と目が合う。
喋ってるし浮いてるしピンクだし魔法生物とかファンタジーだし、絶対私の知ってる犬じゃないけど、もう良い。
「あのっ、私何でここに居るんですか? ここはどこですか? リュべ達は日本人、じゃないですよね? 何をしているんですか?」
「その前に。あなたはえーっと、エリカ様と言うのですね? レジェムには分かります!!」
レジェムは尻尾をぶんぶん振り私の周りを駆け始めた。
……浮いたまま。
「エリカ様、ここはンナードオーヴァと言う召喚士の世界です。エリカ様が居た世界とは別世界でして、エリカ様は召喚士見習いのリュべ様が召喚した喚ばれしモノとしてここに居るんです」
異世界。……やっぱり。
アニメでお馴染みの単語だ。私も少1の妹と何作も見た。
って、私戻れるのかな??
お母さんに心配かけさせたくないんだけど……。
「召喚士は動物や植物を別世界から喚びます。人間は召喚出来ないのですが……リュべ様はしてしまったようですね。凄い失敗です!」
笑顔で言うレジェムに悪気は無いのだろうけど、その言葉にリュベが涙目になる。
「レジェム、僕はちゃんと獣を喚んだんだよ、人間じゃなくて……!」
そんなリュベを見て、白いライオンを従えたロディアッタがニヤニヤと笑う。
「おい泣き虫、大人しく自分は落ちこぼれだって認めろよ! ではレジェム、俺らはもう行くよ。失礼!」
鼻を鳴らして言ったロディアッタは、他の子供達の元に歩いていく。
「いたっ!」
「あっはっはっは! 失礼!!」
しかも途中、白いライオンと共にわざとらしく私にぶつかってきたし。
「ロディアッタ様、レジェムはもう少しここに居ます。飛空庭内では、レジェムの仲間達の言う事を良く聞いて下さいね。では道中お気を付けて〜!」
リュベとロディアッタ達が二分される。
まるでロディアッタ達だけ改札の奥に行けたかのような距離間で。
「ではな落ちこぼれ!!」
ロディアッタも他の子供達も、どこか二ヤつきながら手を振ってくる。
なんで手を振ってるんだ? と思った次の瞬間。
ガチャッ! と鍵がかかった音が地面から響く。ロディアッタ達を城ごと柵のように囲む低木が、にょきっと生えてきた。
「なっ……!?」
目の前の光景をただ見ていたら、ぶわりと一際強い風が吹き、私のポニーテールと、声を上げて泣き出したリュベの青髪を揺らした。
「っうそ!?」
次の瞬間。
低木で囲まれた部分の地面だけが浮かんだ。
「庭が飛んでる……!?」
「あれは飛空庭と言うンナードオーヴァの移動手段で、その名の通り空飛ぶ庭です~」
城とロディアッタ達を乗せたまな板状の地面が、どんどんどんどん地上から離れていく。
100人以上居た筈の草原は、あっという間に私とリュべとレジェムだけとなった。
ここは飛空庭乗り場ってとこかな。
地面が空に消えて行くのを呆然と見送っていると、隣に居たリュべが目を拭いもせず初めてこちらを向いた。
「なっ、なんで僕の召喚に応じたの! 君を召喚さえしなかったら僕は……!」
え、開口一番怒鳴られた。
こんなに泣いてる子の言葉だし……とは思うんだ、けど。
「ちょっと! なんでリュべがそんな事言うの!? こっちは被害者だって言うのにー! 早く地球に返してっ!!」
こっちも怒鳴り返してしまった。
「リュベ様もエリカ様も落ち着いて下さい! 大丈夫です、エリカ様は帰れますから。まあ数日から数ヶ月はンナードオーヴァに滞在する必要があるでしょうが、ご心配なく。エリカ様が召喚される直前の時間に戻しますので」
「本当!? 良かったぁ……」
一番心配していた事だからホッとした。
良かった、お母さんにも心配かけない。
「植物召喚なら得意なのになあ……ううううぅ……」
その横で、ぐずっているリュベがぼやいている。
「エリカ様は誤召喚直前、死ぬ運命にある獣に触っていませんでした? 間違って呼ばれた原因は恐らくソレです。召喚される獣は、もうすぐ死ぬ運命にある獣になるので」
「あっそうか! あの時の声はリュベだったんだ!」
死ぬ運命にある獣。
心当たりがありすぎるワードに叫んでいた。
リュベは本当はあの白猫を召喚する筈だった。それが間違って私を召喚してしまった、と。
「僕の……声?」
「ンナードオーヴァへようこそ、って声が聞こえた。ロディアッタもさっき言ってたけど、あれが召喚魔法の詠唱なのかな?」
「わっエリカ様凄い!! その通りです、良くお分かりでっ!」
ぶんぶんとはち切れんばかりに尻尾を振って喜ぶレジェムに、私の頬も綻んだ。
「エリカ様。まだまだ質問があるとは思うのですが、続きは村に戻りながらにしましょう?」
うん、と頷き歩き出す。
「褒賞戦出たかったな…………はあぁ……」
リュベ達の後をついて坂道を下りながら、首を傾げる。
褒章戦。
さっきからちょくちょく話に出てくる単語だ。
「リュべ、褒章戦ってなに?」
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