004 「てかブラ大きすぎでしょ! あたしの顔隠れちゃうよ!」

 わたくしはもう一度、肖像画の女生徒を見つめました。

 銀色の髪に空色の瞳、何かが気に入らないのか不満そうにくちびるを歪め、表情からは生意気な気配を感じました。


「それ、千夏ちゃんのお母さんね」


 わたくしが立ち止まっているのに気が付いたギャルの先生は、わたくしの横に並ぶように立ち、同じように肖像画を見つめました。


「戦争を終わらせた––––ってどういうことですの?(戦争なんてあったのか)」


「二十年くらい前にね、第四次魔法大戦があったの」


 ギャルの先生はそう言って苦々しげな表情を浮かべました。


「大きな戦争で国中が巻き込まれてさ、酷いものだったよ……」


「それを終わらせましたの? たった一人で?(一人で戦争を終わらすとか一騎当千じゃんか、すご)」


「ヤバい強さだったよ、白銀の魔女とか呼ばれてさ、七日間で終わらせたってあるけど、他の国だと、火の七日間とか、悪夢の一週間とか言われてる」


 ギャルの先生は周囲を見渡してから、「お部屋で話すよ」と言いました。周りにわたくし達が何を話しているのかと、聞き耳を立てていると思われる寮生が集まっていたからです。

 ギャルの先生は、階段を三階まで登ってから、廊下を進み、突き当たりの扉を開けました。


「ここが千夏ちゃんの部屋ね、広いっしょ?」


 確かに広いと思いました。

 廊下を歩いている時に空いている他の部屋(おそらく空気の入れ替えをしているのでしょう)をチラリと覗いたのですが、その倍くらいの広さがあります。

 白を基調とした明るい雰囲気の部屋には、ベッドルーム、テーブルやソファの置いてあるリビングスペース、トイレ、バスルームまでありました。


「この角部屋だけ、窓が三方向にあるの」


「明るくて素敵ですわ(窓が多いからって別に嬉しくねーし)」


「毎年、首席の生徒がここになるの」


 わたくしが首を傾げますと、ギャルの先生は「ルームメイト」と言いました。


「ルームメイトの子が首席なの。千夏ちゃんと同じ世界の出身だから、色々都合が良いかなって」


 薄々気付いてはいました。寝室にベッドが二つありましたので。


「多分、今日か明日には来ると思うよ。明後日が始業式だから」


 どんな人なのでしょうか。首席なのだから、きっと真面目で頭のいい人でしょうね。わたくしと相容れないタイプの気がします。

 まあ––––そのことは今はいいです。


「あの、お母様のことなのですが……(あのクソババアの話をしてくれ)」


「その前に荷物とか、片しちゃおっか」


 ギャルの先生は、リビングの片隅に一纏めになっている段ボールや紙袋を指差しました。


「あれ、全部千夏ちゃんのお母さんが送って来たやつね」


「いつの間に送ってきましたの?(ち、いらん世話焼きやがって)」


「一昨日には着いてたよ」


 ギャルの先生は何も無い所から、白色の細長い棒状の物を取り出しました。先端の方に、オシャレデザイナーが作った、デカいイヤリングのような装飾が付いてます。


「それは魔法の杖ですか?(厨二デザインじゃねーか)」


「持ってみる?」


 持ってみました。

 杖は25センチくらいで、とても軽いです。軽く振ってみましたが、何も起こりませんでした。


「持ち主じゃないと魔法は使えないんだよねー」


「どういうことですの?(何でだ?)」


「杖って割と高価なものが多くてさ、防犯防止に魔力登録ってのをしてね、杖の持ち主じゃないと使えなくなるようなセキュリティがあるの」


 ハイテクですわね。

 わたくしは杖をギャルの先生に返し、ギャルの先生が杖を振るのを見守ります。

 ギャルの先生が杖を軽く振ると、ダンボールの中の物が勝手に飛び出し、衣服は折り畳まれクローゼットに、本はテーブルの上にある本棚へと飛んで行きました。


「わ、すごいですわ!(これが魔法ってやつか)」


「ふふん、あたしは家庭魔法得意だからねっ」


 お次は紙袋に杖を向け、中身を浮かばせました。

 ……とても可愛らしく、セクシーなランジェリーが複数出てきました。


「うわ、これサルートじゃん! 千夏ちゃんすごいの着けてるねー!」


「恐れ入りますわ(ち、違う、それはあのクソババアが勝手に……!)」


「え、全部サルートなの⁉︎ うわー、金持ちー! てかブラ大きすぎでしょ! あたしの顔隠れちゃうよ!」


 お、お母様のあんぽんたん! なんでこんな余計なことをしますの! そんな乳バンド要りませんから、サラシを送ってくださいな! こんなの付けたら、それこそ晒し者ですわ!

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