003 「ごきげんよう、いいお天気ですね(何見てんだ、コラ)」


 お二人の話を要約しますと––––

 ここは異世界にある例のスイートラリアという国で、目の前のお城が魔法学校。

 わたくしは三年間、ホワイトリリィ寮で暮らしながら、魔法を習う。ホワイトリリィ寮は、ギャルの先生が寮長。

 フェルルは飼っちゃダメ。

 ここには、空間転移の魔法で移動してきた。


「なら、その空間転移という魔法とやらを使ってくださいな(だったら、それで早く帰ろうぜ、腹減っちまった)」


 母さんは再びニッコリと微笑みました。


「やだ」


 ムキッ。

 もう、本当にお母様は昔からわたくしをイライラとさせますわ!

 わたくしは進学先のヤンキー高校をシメて、最終的には全国統一をするんですから!

 こんなわけのわからない所で、大人しくしているわけにはいきませんの!


「じゃあ、お母さん、そろそろ帰るねっ」


 話も聞きませんし!


「お母様の手料理が食べれなくなるのは、残念ですわ(ふざけんな、あたしも帰るからな!)」


 またこの口は全然違うことを言って! 確かにお腹は減っていますし、お母様の料理は大変美味しいですが、わたくしは帰りたいのであって、その料理が食べれなくなることを憂いているわけではありません!

 もう、本当にいい加減にしてほしいですわ!


「ちーちゃんは、お母さんの料理好きだもんねっ」


「お恥ずかしながら、お母様の手料理が美味しくて、スカートが少しばかりキツくなってしまいましたわ(ま、まあ、ハンバーグとか、あとは、カレーとかは結構イケてるな)」


 しかも、余計なことバラしますし! もう本当になんなんですの!


「ハニーちゃんもお料理上手だから、心配しないで」


 お母様はわたくしから、ギャルの先生に視線を移しニコッと笑い、再びわたくしに視線を戻し、小さく手を振りました。


「じゃあ、頑張ってねっ」


 お母様がパチンっと指を鳴らすと、お母様の姿は一瞬にして消えてしまいました。

 まるで、魔法のように––––魔法ですね。


「相変わらず、見事な魔法だねぇ」


 ギャルの先生は、お母様の消えた後を見て、感心するように頷いておりました。


「空間転移の魔法ってね、本来は腕利きの魔法使いが数十人がかりで行うものなの」


「……つまり、わたくしは帰れないってことですの?(じゃあ、その腕利きの魔法使いとやらを集めて、帰らせてくれ)」


 ついに、わたくしの意思を無視して結論を述べました。


「千夏ちゃん、理解早いじゃーんっ」


 腕利きの魔法使いとやらがどのレベルで、どれほどの人数が必要なのかは想像出来ませんが、わたくし一人の為に、その腕利きの魔法使いを今すぐ集めるのが不可能なことくらい分かります。

 受け入れるしかありません、現実を。

 わたくしは帰れませんし、魔法学校とやらに通うしかありません。

 ただ、帰るチャンスを待つだけです。


「さて、それじゃあ、早速部屋に案内しちゃおっかな」


「お願いしますわ(仕方ねぇなぁ)」


 ギャルの部屋を出ますと、日当たりのいい廊下に出ました。

 大きな窓からは太陽の光がこれでもかと差し込み眩しいくらいです。

 外には、水平線が見えるくらい広大な海が広がっていました。


「ここ、島なの」


 わたくしの視線に気が付いたギャルの先生が教えてくださいました。


「大きな島の上に城があって、その周辺に学生寮とか、色々あるかんじ、みたいなっ?」


「つまり、学業に集中出来るとても素晴らしい環境というわけですね(逃げられないってことか)」


 ギャルの先生は笑いながら、「そっ」と返事を返しました。

 廊下をしばらく進むと、何人かの寮生と思われる生徒とすれ違いましたが、皆さん、わたくしのことをジロジロと見ておりました。

 ムカつきますね、ガンを飛ばしてやりましょう。


「ごきげんよう、いいお天気ですね(何見てんだ、コラ)」


 はい、ニッコリと笑いながら手を振りましたよこの身体は(予想は出来ました)。

 周囲から、きゃーという歓声が上がり、息を飲む声まで聞こえました。

 ……何ですのこれ。

 その後も複数の生徒から視線と関心を集めながら廊下を進むと、エントランスと思われる場所に出ました。エントランスはとても広く、車が楽にUターン出来る程の広さです。

 そこでわたくしは、自身が視線を集めていた理由を知りました。

 エントランスの目立つ場所に、わたくしと瓜二つの顔をした女生徒の肖像画が飾られていたからです。ジロジロ見られていたのは、この人にそっくりだったからですね。

 一体誰なのかと肖像画に近付きますと––––額縁の下に名前が書かれておりました。


【シェリル・フォード・レ・ロア・ユリナファイン】


 ……シェリル、お母様の名前です。

 その下には長ったらしい文章で、女生徒が成し遂げたと思われる偉業が記載されていました。


『ユリナファイン家の三女として産まれたシェリルは、先の魔法大戦をたったの一人で終戦へと導いた、世界最強の魔法使いとして誰もが知る存在だ。

 十五歳という年齢で、戦場におもむいたユリナファインは、驚くべきことに僅か七日間で戦争終結へと導いた。

 その功績を称えられ、勲一等ベネルゼラガ賞を史上最年少で受賞。最上級独立魔法使い、上級女性魔法士にも同じく最年少で認定された』

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