許されない恋

許されない恋

　ライブ会場にて、大勢の人が歓喜に震える。

　うちわやペンライトを振り回す人々。

　次に出てきたアイドルに、歓喜の声は大きくなる。

　ペンライトも黄色からピンクに変わる。

　草野（くさの）藍梨（あいり）。

　今一番ネット界隈を騒がせているアイドルで、完璧で究極な俺の彼女だ。

　容姿端麗。ダンスや歌のキレも良くて、そして賢い子。

　それがネットの評価だ。

　一方で甘えん坊で、どこか抜けていて、誰よりも努力家で。そんな姿を俺は見てきている。

　だから応援したくなる。だからいつまでも一緒にいたくなる。

『今日のライブ見てくれて、ありがと！』

「ああ。良かったよ。またくるな」

　電話越しで弾む声を上げる藍梨。

『絢斗（あやと）くんは優しいな～』

　甘い声色で胸がドキッとする。

　やっぱり藍梨には勝てないな。

　苦笑しながらも、今日のライブの良かったところを上げていく。

「いっぱい練習したものな」

『うん。がんばった。だから、明日はデート、楽しもう？』

「ああ。そうだな」

　デートでは藍梨が変装をして出かけるのだが、

「あれ？　草野藍梨じゃね？」

「うそ？　まじ？」

「隣にいるの、マジで彼氏じゃね？」

　ネット界隈では炎上。

　一番星のアイドルに彼氏がいる。

　それは食い物としてネットを騒がせた。

　そのうち、テレビでも報道され、草野藍梨というコンテンツは終わりを迎えた――

　と思えたのだが、事務所がだした公式文章がネット界隈を鎮める。

（目撃された男性は兄である）

　その発言は多くの人に受け入れられたけど、一部では信じない人が多かった。

『ごめん。別れよう』

「待ってくれ。藍梨。藍梨！」

　電話が途切れ、連絡が途切れ。

　俺と藍梨は許されない恋をしていたのだと気がつく。

　――夢のような日々に別れを告げた。