なんもかけん

脳幹 まこと

なんもかけん


 何にも書けない。

 本来ならこの一文だけで終わりにしたいくらいだが、そんなことすると「もう見た」とか「チラシの裏でやれよ」とか集中砲火を浴びてしまう。

 ただ「何にも書けない」以外の文章を載せると、今度は「書いとるやんけ」という実に痛い指摘が飛んでくるのである。

 つまりこの題材を選んだ時点で敗北したも同然である。


 どうしてこんな題材を選ぼうと思ってしまったのだろうか。

 今日見た夢は「大量の壁をすり抜けるタイプの蜂に顔じゅうを刺される」だった。蜂に襲われる夢はどうやらあんまり良くないらしい。そういった不安のせいだろうか。不安を紛らす為にせめて想像力を膨らまして一作書こうと思った。しかし、全然筆が進まず、寧ろイラつきを増す結果となった。だから愚痴を言おうと思ってこの題材を選んだというのはどうだろう。

 そう思って、デイリーヤマザキでパンを二つ三つ買ってみる。山崎製パンの商品は実に良い。何が良いかって、時たまボリュームの、カロリーの暴力みたいな商品を作ってくれるのが。人体の構造を熟知している。「こまけぇこたぁいいんだよ!!」と奮い立たせてくれる。人生の教材だ。


 とは言え、「何にも書けない」という気持ち自体は確実に胸の中にある。別にハイラルに夢中とかではない。そもそもゲーム機自体から離れて久しいのだ。

 正確にはこの場合の「何にも書けない」とは、いくつかのネタ自体は上がっているが、それを花開かせる、進展させる方法が見つからないという意味合いになるのだろうか。本当に「何にも書けない」のだったら、「本業でもないんだし、やめて他のことしたら?」となって自然だからだ。わざわざスランプ的な台詞を吐く必要もないだろう。

 ただ気がかりなことがあって、それは「いくつかのネタ」の内容がさっぱり分からないのである。おそらく少しまではあったのだろう。そして表現しようとした。その時には消えてしまったのである。今となっては、サムネイル部分だけがかすかに残っているだけだ。ネットに流れるアダルト動画みたいで切ないね。


 どうしようか。何にも書けない。

 というか現状、何にも書く必要がない。プロの芸術家が仕上げてくれたデッサンに対して、橙のクレヨンだけ渡されて「どうぞ」と言われても、何にも付け足すことなんてないよ……と思うのと恐らくは似ている。

 誰かに書いて欲しい。何を書いて欲しいか一切説明できないし、そのくせ、少しでも自分の思っているものと少しでも違ってたら猛烈に文句を言うと思うけど。

 山崎製パンのスイートブールにかぶりつきながら考える。どうしてこれを生み出そうと思ったのだろう……


「当社を志望した理由はなんでしょう?」

「値段あたりの体積が業界一大きい菓子パンを作りたいんです!」


 なるほど。確かにスイートブールはとてつもなく印象に残る。Z軸(高さ)を攻めたことで、販売スペースを圧迫せず、けれども圧迫感のあるフォルムを作り出すことに成功したのだ。


 ナンも見習ってほしい。

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