Call my name.
涼
第1話 No name
ねぇ、知ってる?私には、名前が無かった事。
私は、名無しで、学校にも、社会にも溶け込めず、1人、幽霊みたいに、彷徨ってた。
でも、街中で人とぶつかれば、舌打ちされたし、学校でノート、靴、体操着、色んなものをぐしゃぐしゃにされて、隠されて、引き裂かれて…。
親だって、私を邪険に扱った。育児放棄とか、ならまだ良かったんだけど、虐待で…。体には、熱湯をかけられて、狭い押し入れの中に何時間も閉じ込められた。
友達?…いないよ。みんな、私を避けた。不幸が移るって。私は感染症の患者かな?不幸って言う感染症を持って、生まれちゃったのかな?私は、何も欲しいものはなかった。強いて言えば、私の存在を肯定しいてくれる、そんな人が、たった一人でも、現れてくれたらなぁ…ってくらい。高望みでは…無いでしょう?
私の口癖、何だと思う?そうだね。簡単すぎるね。そう。
「申し訳ありません」
誰に対しても、何に対しても、上手く行かない私は、この言葉を、繰り返した。でもね、不思議と、泣いた記憶は無いんだ。熱湯を、かけられてる間、じーっとしてた。叫ばなかったし、逃げなかった。
「あぁ…この熱さは、私が生きてる証。生きてるから、熱いんだ」
そう感じてた。親は、それがまた気に喰わなかったみたい。いじめたかったんだね。泣き叫ばせたかったんだね。怖がらせたかったんだね。でも、私は、泣きもしなかったし、叫びもしなかったし、抵抗する事も無かった。つまんなかったんだね。親としては…。
もう、その頃には、私は、私の名前を忘れていたの。だって、誰も呼んでくれないんだもん。学校に行ったって、下駄箱の私の名前は、『ブス』とか『馬鹿』とか『死ね』とかだったから。名字まで、忘れたよ。出欠取る時、先生すら、私の名前を呼んでくれなかった。
こんな、地獄、現実にあるんだ…、そう思った。人間であることの意味が、分からなかった。まさに、幽霊。足は、あったけどね。
もう、家にも帰りたくなくて、学校にも行きたくなくて、私は、ホームレスのような生活を、16歳で始めた。新聞配達とかして、ちょっとずつだけどお金を貯めて、でも、気を付けないと、不良に見つかって、お金、盗られちゃうから、段ボールのお城で、きったない格好で、髪ぼさぼさで、私はアパートを借りれるくらいのお金を貯めようと、必死だった。
そのためには、新聞配達くらじゃどうにもならなくて、その時、初めて、困ったんだ。履歴書、書くとき。
「あ、名前、ないじゃん…私…」
って。
自分でつけようにも、つけた事ないし。どんな気持ちでつけたらいいか分からなかったし。
そんな時だった。彼が、私の前に現れたのは―――…。
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