(5)

「おい、あんた、その『鎧』から、今まで殺した奴の魂を全て吐き出せッ‼」

 私は、ありったけの勇気を振り絞って、「鋼の男」に向かって、そう叫んだ。

「え……えっと……無理だ」

「何でッ⁉」

「理由は2つ。1つ目は……この鎧は、どうやら、吸い取った死者の魂を燃料として消費している……らしい」

「『らしい』?『らしい』って何?」

「いや……この鎧は俺の一族に代々伝わっていたモノだが……俺も由緒や起源を良く知らん。この鎧が死者の魂を吸い取る事は知ってるが……多分、その吸い取った魂の大半は……もう存在しない」

「そ……そんな……馬鹿な……」

 いや……予想は付いてたけど……考えたくは無かった、というのが正確な言い方かも知れない。

「理由2つ目だが……もし仮に……この鎧が吸い取った魂が……まだ、どこかに存在していても……俺は吐き出させる方法を知らん」

「あああああ……」

「よ……良く判らんが……お前は、一体全体、何をマズいと思ってるのだ?」

「あ……あの……あんた……冒険者を山程殺したよね?」

「そりゃそうだ。俺は冒険者ってヤツが大嫌いだからな」

 何で、冒険者をそこまで嫌うのかは判らない。

 でも……。

 こいつは目的を果たした……。

 何十年後か何百年後か……この大騒動の事を人々が忘れ去るまで……この国で冒険者になろうなって思うヤツは居ないだろう。

 いや……ひょっとしたら……この大騒動の事が他国にまで伝わったなら……他国でも冒険者は廃業する羽目になるかも知れない。

 おめでとう、冒険者ヘイターさん。貴方の望みは全て叶いました。

 でも……。

「でも……貴方が殺した奴らの中に……『僧侶』『クレリック』『プリースト』『聖女』とか、その手の連中も山程居たでしょッ‼」

「それがどうした?」

「だから……そいつらの大半は……この王都を荒し回ってる魔物達と……契約して力を得てたのッ‼ そいつらの魂は、死んだ後に、あの魔物達が美味しくいただく筈だったのッ‼ それを、あんたの鎧が横取りしたせいで、あの魔物どもが御機嫌斜めになっちゃったのッ‼」

 ……。

 …………。

 ……………………。

「ま……待て……。神というのは……あんな化物みたいな姿をした、どう考えも邪悪極まりない真似を平然とやらかす、人の命など何とも思っていない連中……」

「そこから説明しなきゃアカンのかッ‼」

 あ……と言っても……この事は……聖職者や高レベルの冒険者なんかの一部の人間しか知らない機密情報。

 こいつが……「超規格外」って意味の「チート」と「ズル」の意味の「チート」の二重の意味の「チート」で、短期間の内に「冒険者ランキング1位」になってしまった色々と普通じゃない「高ランク冒険者」だった以上……この情報を全く知らなかった可能性は……たしかにクソ高い。

「え……えっと……?」

 その時……。

 私のパーティーが壊滅して以降……。

 何度もお馴染の……。

 轟音……。

 爆風……。

 衝撃波……。

 けど……。

 あれ?

 「鋼の男」のサイズが一瞬で縮んで……。

 えっ?

 違う。

 何? 何が起きて……。

 吹き飛んだのは……今まで無敗どころかダメージらしいダメージを受けた事さえ無い「鋼の男」。

 う……うそでしょ……。

 「鋼の男」のチート鎧と同じモノが……他にも有ったの?

「貴様がこの世界に漂着した『対神鬼動外殻』の持ち主か? 悪いが、装着者の資格を剥奪させてもらう」

 「鋼の男」の鎧に良く似た……けど……サイズは小さく……そして、顔の口に相当あたる箇所に「4本の牙が上下に伸びた悪鬼の口」のように見える意匠が有る……もう1つの鎧。

 その鎧から発せられる声は……若い女のものだった。

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