(4)

「探しているのは……この御仁かな?」

 ドンっ……。

 何故か……この酒場に現れた「鋼の男」は……右脇に抱えてた死体を床に放り出した。

 エルフと人間を合わせたような顔……でも……絶対にハーフエルフなんかじゃないビミョ〜に歪んだ顔だ。

 ぶっちゃけて言えば……この死体の耳は……いわゆるエルフ耳と言えなくもないが……左右で長さが明らかに違い、しかも、形も歪み、一部が腐汁や膿と化して溶け出し始めている。

 顔の各部も……同じだ……「加工」したらしい場所から崩壊が始まっている。

 そう……実は……もう、この世界にはエルフやドワーフは、ほとんど残っていない。

 私が生まれる遥か以前に、ほぼ全ての「妖精系種族」が、元々居た世界に戻ってしまった。

 冒険者達の中に居るエルフは……実は魔法や外科手術で人間を「加工」したモノだ。

 まぁ、この国や隣国では、夜中に町中を歩いてると官憲に職務質問と称する嫌がらせをされたり、何か犯罪が起きると真っ先に容疑者扱いされる白肌人種がマトモな生活をする為の数少ない方法の1つが「エルフのフリして冒険者になる」だが……。(冒険者がマトモなカタギの仕事だとして)

 そして、その「加工」が……本人が死んだ事で中途半端に解除されている。

「それとも……こちらの御仁かな?」

 ドンっ……。

 続いて、放り出されたのは……ドワーフの戦士。

 こっちは……小人症の人間を「加工」したモノだ。

 冒険者のファン達の間ではドワーフ人気も一定数有るので、各国の冒険者ギルドでは「ドワーフに加工する人間」の確保に苦慮している。

 万が一、小人症の治療法を見付けた医者や魔法使いが居たら……その国の冒険者ギルドによって商売の邪魔をする不逞分子として秘かに消される。

 他国の冒険者ギルドの中には……わざわざ「品種改良」で小人症の人間の家系を作り出したところも有る位だ。

 もちろん、その「品種改良された小人症の家系の人間達」は魔法や刷り込みや洗脳で、自分達がドワーフだと思い込まされ、魔法や外科手術でドワーフっぽい外見に「加工」されて冒険者デビューする訳だ。場合によっては他国の冒険者ギルドに輸出される。

「あ……あ……あ……な……何で……?」

「ああ、そうだ。他にもギルドが探していた元冒険者を何人か見繕って、ここまで持って来た。表に置いてある」

「あ……あの……旦那……」

 その時、元7位チームのおっちゃんが口をはさむ。

「何だ?」

「え……えっと……旦那に協力したんですから……俺の命は……」

「ああ……それだが……」

 「鋼の男」は……おっちゃんの両肩に手を置く。

 ぽんっという軽い感じで……。

「すまないな、俺のミスだ」

「えっ?」

「冒険者ランキング1位の俺が言うのも何だが……俺は冒険者って連中が大嫌いだ。皆殺しにしてやりたいぐらいにな。そして……最終的に俺の味方になった奴でも……敵になった奴でも……裏切り者も大嫌いだ」

「な……なに……言ってんすか……その……」

 逃げようとする、おっちゃん。でも……気付いた時には……「鋼の男」は、おっちゃんの両肩を強く握っていた。

「これについでも、すまないな。俺は口下手なんで、話がくどくなって……。まぁ、すぐ終るんで辛抱して聞いてくれ。つまる所、俺は、お前が大嫌いだ。普通の大嫌いじゃない。普通の大嫌いの2倍の大嫌いだ」

「やめて……やめて……やめてやめてやめてやめて……」

「だから……俺は……お前に、世にも笑えるみじめな死に方をさせるつもりだったが……そこが俺のミスだ」

 次の瞬間、世にも嫌な音と……おっちゃんの絶叫。

 ……おっちゃんの両腕は……力まかせかつ強制的に胴体とお別れ。

「うるさい」

 「鋼の男」は、おっちゃんの顔面を殴り付け……。

「おっと、すまない。つい、カッとなってしまった。いや、本当にすまないな……。俺は……自分が思ってたより馬鹿だったようだ」

 そう言って、「鋼の男」は……床に倒れてるおっちゃんの両足をつかみ……。

「散々、頭を使って考えたつもりだが……『世にも笑えるみじめな死に方』じゃなくて『世にも残酷無惨な死に方』しか思い付かなかった」

 次の瞬間、おっちゃんの胴体は股間から喉元まで縦に割け、大量の血と臓物が辺りに飛び散った。

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