主人様には負けたくない!

@kisaragikanoto

第1話 主人様には負けたくない!


メイドの朝は早い

朝日が伸びる前に覚醒して仕事を始める

まずは、館の清掃をし……

埃どころか、指紋一つない窓を見る

次に主様の食事を準……

すでに終わっていて、従者用も準備されていた

次は……

次は…………

次は……………終わってた



この主人様!!!!!!!!!!


わたくしは頭を抱え空を見上げた


「んっ?なにかな?」

わたくしの動きに主様が反応して話しかけてきた!


どうしたもこうしたもないです!

わたくしはまだこの屋敷に来て一度も朝の準備をしたことがないのです!

わたくしは主人様を睨む


「すまない、時間が空いていたから……」

申し訳なさそうに謝るのが更に腹立たしい!

「僕の日課なんだ……」

そんな事を言うが……

私には仕事なのです!暇つぶしでわたくし以上の事をしないで欲しい!


仕事と言う生きがいを奪われたメイドは何をしたら良いのです?

わたくしの視線に主人様はたじろぐ


「いや、それはそうだけど……仕事が減ったんだし……」

確かに仕事は減っていますが……わたくしのプライドの問題なのです!

両腕を組み鼻息を荒くしながらわたくしが答えたが

「そっ……そうなのかい?」

ドン引きされました!


「おやおや?主様……またこのメイドにお説教されて居るのですか?」

執事がいつの間にか近いていました

わたくし悪くありませんから!主人様が私の仕事を……

わたくしが答えているのに、執事は肩を落としながらため息をつき

「主様に仕事を取られるのは、アナタが頭を働かせないからでしょう?」

などと言ってきました!

なんです?頭を使えば……主人様から仕事を取れると言うのですのね!


一応雇われの身でありますので、手加減をしていましたが……良いでしょう!わたくしの実力を見せてやります!

と意気込むが……出鼻を挫くように

「それは良いですが……館のルールは守ってくださいね!それでは、主様!失礼します」

頭を下げて執事は音もなく退出した

相変わらず、忍びのような身のこなしですわね

「そうだね……彼の事は僕もよく知らないんだけど……あんな感じだよ」

わたくしよりも関わりもある主人様を持ってしてもこの評価……全くもって謎です……

そう思いながら……わたくしはこの館のルールを思い出す


①主人様を23時には寝室へ案内、食事は厳禁……寝室から出てこられるまで声をかけにいかない

②館の住人は互いを家族にように扱う

③雇主だろうと文句はちゃんと言う

④互いの事は役職名で



うん!①が異質で残りも違う意味で職場ではないですね

何より、うちの主人殿グレムリンかしら?

などと考えたが……

④も変わっている互いの事を名前ではなく役職

しかも主人様に対しても主と言う役職でだ

それでも主人に対してもだけ、それぞれ好きな言い回しで呼んでいる


ちなみに役職はわたくしはメイド

主に館の室内清掃や雑務が仕事で現在進行形で

主人様に仕事を奪われている

他の役職は先ほどの執事、薬師、コック、庭師が居る


さて早速執事が言っていた努力をしなくては!


わたくしは早速、薬師の元へ移動した


「ん?メイドじゃないかどうしたんだ?」

薬師がわたくしに気づき声をかける

「ふむふむ、アルジに仕事を取られて悔しいから睡眠薬をくれと……お前……バカか?」

バッ・・・バカ?

わたくしに向かってバカですと!

わたくしは薬師を睨む

「いくらアルジがお人好しで優しいからって薬を盛って良い理由にはなんねぇだろうが?」

そう言われて、わたくしは動揺する

「まったく……いつもの様に結果ばかり求めやがって……このバカは……」

また!!!!!わたくしの事をバカと!!!!!

「そんな目をしたって、今回ばかりは大馬鹿だ!間抜け!」

薬師はそう言ってわたくしにデコピンを炸裂させ、あまりに衝撃にオデコを抑えてうずくまる


「言っとくが、俺だからこのくらいで済んでいるが、コックなんかに知られたら夕食抜きは覚悟しろよ!」

そう言われて、わたくしは薬師を見て思わず涙目になる

「なぁ?いやだろ?家族の様な関係以前に、誇れる選択をしな!」

薬師がわたくしの頭を撫でて笑いかけるが……

わたくしは頬を膨らませて

仕事を奪われてない人間がわたくしの気持ちなんてわかるわけがない!

わたくしは薬師に背を向けて走り出す

「気をつけて戻れよ〜胃薬くらいなら処方してやるからよ!」

お気楽に言う声が聞こえた……胃薬ってストレスをそこまでためろと……ん?


そうです!お腹を満たせばよく眠って!主人様が寝過ごせば!良いのです!


そうと決まれば!コックに相談しましょう!


「あれ?メイドちゃん?どうしたの?」

わたくしは事のあらましを伝えると


「へぇ〜睡眠薬を……ねっ?」

圧が……まさか、誘導尋問ですか!?

薬師が、お前バカだろ?と笑う姿が過ぎる!


このままじゃ、わたくしの夕ご飯が!!!!!

思わず、顔を俯ける

「……本当なら食事抜きにするべきなんだけど」

あーやっぱり食事抜き……

「まあ、正直に伝えてくれたから一品減らしで許してあげる!」

わたくしはコックの手を掴み涙目で掴むと何度も頷いた


「それで……ボクに料理を習いたいとね?」

わたくしは改めて頷く、コックも自分の仕事を取られているからわたくしの気持ちをわかって……

「コック!お待たせ!夕ご飯の仕込みをしようか!」

主人様!?えっ?なんで?

コックの方を見ると

「主君〜待ってたよ!今日はメイドちゃんも手伝ってくれる!」

わたくしはコックの顔を睨みつけようとしたが……

「今日は豪華にしようか」

思わず笑みがこぼれ落ちた!

「ボクは主君が料理するのは別に反対していないの」

主人様が席を離している時にコックがわたくしにそう話しかけてきた

「だって、主君が望む事を支える事がボクたちの役割なんだ」

家族と言いながら……歪なものをわたくしは感じてしまった……


「コック!これで良いかな?」

主人様がジャガイモを倉庫から持ってきた


想像よりも量がありそうだったから、わたくしは主人様を手伝おうと近づくが……

!!!!!

足がもつれて、転びそうになったが……

「危ない!!!!!」

主人様と一緒に倒れてしまった

主人様が右手を抑えて険しい表情をしていた


「ありゃ、これは捻ってるね……主君、今日は手伝いは良いから、休んでいて良いよ!

さあ!メイド!主君を怪我させた分!しっかり働いてもらうからね!」

コックは主人様の状態を確認するとわたくしの襟首を掴む!

ちょっと力が強いです!

主人様!!!!!薬師の所にちゃんと薬をもらってくるのですよ!

わたくしは手を伸ばしながら、調理場から出ていく主人様を見送った



それから、散々こき使われたわたくしは、最後に主人様に食事を持って行った


席に座っている主人様は右手首に包帯をして落ち込んだ様に俯いていた


主人様の怪我は、少し酷いらしく介助が必要だと薬師から連絡があった


主人様の食事を整えて、わたくしは主人様の隣に席を準備して、食事のお手伝いを始めた

「ごめん……利き腕が使えないから手伝ってもらって……」

わたくしは顔を横に振った

元々はわたくしのせいであるから、謝らないで欲しい


「それでも……ごめ……」

わたくしは主人様の唇をサジで抑え首を横に振る

わたくしは口を軽く開けて……すぐに閉じ少し微笑む……

わたくし自身よくわからない行動をしていたが……


「ああ、ごめんじゃなくて、ありがとうだね」

主人様には何かわかったらしく寂しそうに

でも笑みを浮かべた


なんだか……わたくしは恥ずかしくなって顔を背けてしまった


それから、つつがなく食事も終わり……

主人様の湯殿のお世話をし……傷がほとんどない肌を丁寧に磨いた


そして……ルールの時間を迎えた


「それでは主殿、良い夢を」

それでは、おやすみなさいませ主人様!

わたくしたちは、主人様が部屋に入るのを見送り、それぞれが自分の部屋へと戻っていく

だが、途中執事に呼び止められ、わたくしは立ち止まる

「本日はお疲れ様でした。

メイド、仕事には慣れましたか?」

そう言われて、わたくしは苦笑いをしながら、主人様の部屋の方を見る

「それは愚問でしたね、主様も悪気があってメイドの仕事を奪っているわけではないのですよ」

何かいつもと違う雰囲気にわたくしは少し戸惑うが……

胸を張って明日は仕事ができる!とアピールした


そんなわたくしを執事はなぜか苦笑いで見て

「本当にメイド……アナタは不思議ですね

声を発することが出来ないのにすごく感情が豊かで通じてしまう」

そう言われて、わたくしは頷く

生まれつき声を出せないわたくしは……

家族から捨てられ、主人様に拾われた

だから、役に立ちたいのだ


だから、主人様が怪我をした今この時が!

わたくしの朝の仕事をする絶好のチャンスなのだ!

わたくしは執事に手を振ると意気揚々と部屋に帰った

途中、何か執事が言いたそうにしていたが、

わたくしは明日の為にベッドへ向かった

明日はわたくしの不戦勝です!!!!!





メイドの朝は早い

朝日が伸びる前に覚醒して仕事を始める

まずは、館の清掃をし……

埃どころか、指紋一つない窓を見る

次に主様の食事を準……

すでに終わっていて、従者用も準備されていた

次は……

次は…………

次は……………終わってた



この主人様!!!!!!!!!!


わたくしは頭を抱え空を見上げた

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