人見知りで控えめな幼馴染に「何でも言って?」と要求に答え続けたらいつの間にかエスカレートして結婚しなきゃいけなくなった
本町かまくら
本編
俺、松永隆太(まつながりゅうた)には幼馴染がいる。
名前は日向比奈(ひなたひな)。
身内びいきを抜きにしてもめちゃくちゃ美人でスタイル抜群な幼馴染だ。
「今日も夜ご飯食べに行っていいか?」
「うん。今日はカレーみたいだよ」
「おっそれはいいな。叔母さんのカレーは絶品だからな」
「ふふっ、りゅうは好きだもんね」
小さく笑う姿はまさに美少女そのもので、長く隣にいる俺でさえドキッとする。
「でもほんと、日向家にはお世話になってばっかだな」
「いいんだよ。りゅうは家族みたいなもんだから」
「そうは言ってもなぁ……」
何かしようと思っても「りゅうは何もしなくていいからね?」と制止されてしまう。
俺の幼馴染は俺に甘すぎるし優しすぎるのだ。
思えば今まで比奈に何かをしてもらうことは多くても、何かをしてあげたことは少ないように思う。
させてくれない、というのが正しいがさすがに申し訳なさを感じる。
「なんか俺に頼み事とかあったら言えよ? なんでもするから」
「うん。りゅうに頼るね」
そうは言っても比奈は俺に頼らないことを知っている。
……ここは強引に行くべきかもしれない。
「それにしても今日は荷物多いな」
「そうなんだよ~。色々と持って帰んなきゃいけないものが溜まっててさ」
「持つよ、荷物」
「え、いいよこれくらい。りゅうだっていっぱい持ってるでしょ?」
「男子高校生をなめんなって」
少し無理やりに比奈から荷物を預かる。
俺でさえ持ってみるとかなり重さを感じたので、これは比奈が持つには相当しんどいはずだ。
「ごめんね、りゅう」
「こんくらいいいっての。というかむしろ俺を使ってくれ」
「えへへ、りゅうは優しいね」
「お前ほどじゃないよ」
なんだか嬉しそうに歩く比奈を見てるとこっちまでにやけてくる。
しかしあれだな。頼られるって随分と気持ちいもんだな。
俺に尽くしてくれる比奈の気持ちが分かった気がする。
よし、この調子で比奈に頼ってもらうとしよう。
ある日の帰り道。
「そろそろ夏服買いに行かないとなぁ」
「アウトレットが近々セール始めるらしいし、ちょうどいいんじゃないか?」
「でも荷物が……」
「じゃあ俺も行くよ。荷物持ちとして」
「え、い、いいの⁈」
「いいよ」
「やったー!」
というわけで、休日にアウトレットにやってきた。
さすがのセールという事もあって、辺りは人だらけ。
はぐれないように気をつけながら比奈と人の間を縫っていく。
「次はこの店に行きたいな」
「おう、行こうぜ」
「で、でももうかなり買っちゃったし……」
申し訳なさそうに俺のことを見てくる比奈。
確かに両手に紙袋が下がっているが、全く問題ない。
「俺なら大丈夫だぞ。あと三倍は持てる」
「ほんと⁈ ならもう少し買おうかな」
かなりご機嫌な幼馴染を見て頬が緩む。
頼られるって、いいね!
この調子でどんどんいこう。
いつも通り授業が終わり、放課後。
比奈がキョロキョロしながら俺の席にやってきた。
「あのさ、りゅう」
「なんだ?」
「実はちょっと、お願いがあるんだけど……」
初めての比奈からの頼みに必然的にテンションが上がる。
尻尾をブンブンと振り回しながら「なんでも言ってくれ!」と食い気味に答えた。
「駅前におしゃれなカフェができてね。私一人じゃいけないから、一緒に……行こ?」
比奈は抜群の容姿で人気があるが、極度の人見知りなため友達がいない。
女子高校生なら大体女子同士で行くものだが、比奈の場合は例外だ。
「いいぞ」
「ほ、ほんとにいいの?」
「あぁ。比奈の頼みは答えていきたいからな。それに言ったろ? なんても言ってって。だから遠慮すんな」
「……そっか。えへへ、じゃあ私りゅうにたくさんお願いしてもいいんだ」
「もちろん。むしろ俺、比奈にお願いされると嬉しいぞ」
比奈に頼りにされてる気がしてかなり嬉しい。
比奈が嬉しそうに笑っていたらなお最高だ。
「ほんと、りゅうったら……」
ぽっと頬を赤く染め俺をとろんとした目で見つめてくる。
女の子過ぎる表情に思わず目を背けてしまう。
こんな可愛い幼馴染、見たことがない。
「と、とりあえずカフェ行くか」
「うん! そうだね!」
比奈が俺の腕にしがみついてくる。
「うへ⁈」
腕がすっぽり埋まってしまいそうなほど大きな胸を押し付けられる。
とんでもない感覚に硬直する俺。
「えへへ、りゅう~♪」
いつになく甘えん坊な幼馴染に気恥ずかしさを感じるも拒絶する気にはなれない。
何せ今まで比奈は控えめだったのだ。
それが全部を曝け出して遠慮なく甘えてくれている。
それを喜ばない奴などいないだろう。
……よし、いい調子だ!
比奈が俺にお願いをしてくるようになって一か月が経った。
今では遠慮なく俺を頼ってくれている。
……ただ、最近少し違和感を感じていた。
「松永~! 宿題のプリント写させてくれない? お願いこの通りっ!」
「またお前か。……ったく、少しは自分でやれよ?」
「うん、明日かやるよ!」
「ほんとかよ」
クラスで仲のいい女子にプリントを見せているとき。
背後から刺さるような視線を感じた。
その視線を辿ると、俺のことを無表情でじっと見る比奈の姿があった。
「?」
最近比奈の様子がおかしい気がする。
今までにないような、少し不穏な雰囲気を醸し出していた。
「……(私のりゅうなのに)」
ぼそりと何かを呟いた気がしたがよく聞き取れない。
「ふぅ終わったぁ!! ありがと松永っ! またよろしく!」
「次は自分でやれよー」
ぱたぱたと走り去っていく友人の背中を見届けて正面に向き直る。
「……ま、気にしなくていいか」
比奈とは付き合いが長く、気の知れた仲だ。
何かあれば、今の比奈なら相談してくれるだろう。
その日の夜。
両親が地方に出張という事で三日ほど家を空けることになり比奈が俺の家に来ていた。
夕ご飯を作ってくれ、その他諸々の家事もしてくれた。
俺の幼馴染は本当に嫁力が高いなとつくづく思う。
「じゃあおやすみ」
「おう」
十二時を回り、比奈は隣の家に帰った。
寝るかと思い、ベッドに入って三十分。
きぃとドアが音を立てて開き、何事かと思って見てみるとそこには枕を持った寝間着姿の比奈がいた。
「どうした?」
「……りゅう、私なんか眠れなくって」
「そ、そうか」
「だから、一緒に寝てほしい、な……」
小学生の頃は確かに一緒に寝ていたこともあったが、さすがに俺らも高校生。
同じベッドの中、というのは抵抗がある。
「で、でもな……」
「……お願い、りゅう?」
もしこれを断ってしまったら、また控えめな比奈に戻るかもしれない。
それは避けたかったし、やっぱり比奈に甘えられるのは気分がよかった。
「……わかったよ」
「ありがとう、りゅう」
比奈が布団に入ってくる。
比奈の持つ体温が触れた肌から直に伝わってきた。
「えへへ、なんかドキドキするね」
「そ、そうだな」
正直、理性を保つので精いっぱいだった。
比奈はかなり可愛いし、スタイルも抜群。
ずっと一緒にいるとはいえ、そういうことを想像しなかったわけではない。
「んっ、よいしょ……」
比奈が寝返りを打って俺の背中に頭をコツンとぶつけてくる。
そして細い指を背中に沿わせた。
「りゅう……」
「ひ、比奈?」
俺の背中を抱きしめ、足を絡める。
押し付けられた豊満な胸は形を変え、どぐどぐと心音を伝えてきた。
これが何を意味するのか分からないほど俺は初心ではなかった。
「……本気なのか?」
「……うん」
「もう前みたいな関係に戻れないぞ」
「私はりゅうと一緒がいい。りゅうを独占したい。だから――」
「きて?」
比奈の方を見て、口づけを交わす。
お互いの体を艶めかしく触っていった。
「あ、比奈。俺ゴム持ってないや。買いに行かないと」
「大丈夫、私持ってるから任して」
「そっか」
暗くてよく見えなかったが、比奈に身を任せる。
比奈は俺の上に跨って、ニヤリと笑った。
「ふふっ、愛してるよ、りゅう」
かくして幼馴染と体を重ねた。
付き合うことになった俺たちは、何度も行為に及んだ。
なんで今まで控えめだったんだ? と思うくらいに比奈は積極的で、逆に俺は搾り取られる立場にあった。
でも俺は比奈が好きだったから全く嫌じゃなかった。
「えへへ、りゅう~」
「全く、比奈は甘えん坊だな」
今では四六時中俺にべったりである。
あぁ、ほんと幸せだ……。
ずっと一緒だった最高に可愛い幼馴染と毎日イチャイチャ。
これほど幸せな青春などあるまい。
そんな幸せの絶頂にいたある日のことだった。
「ねぇりゅう」
「なんだ?」
「またあの女の子と話してたでしょ?」
「あぁ、あいつな。またプリント忘れててさ」
比奈の雰囲気がガラッと変わる。
「なんで私以外の女と話すの? ねぇどうして?」
「え? いや、しょうがないだろ?」
「お願い、もう私以外の女の子と話さないで」
それは無理なお願いだ。
だってクラスの半分は女子なわけだし、必然的に話さなきゃいけない場面が出てくる。
「それは厳しいだろ」
「なんで? りゅう言ったよね? 何でも言ってって」
「何でもって言ってもな、度が過ぎてんだろ」
「……わかんないよ。だってりゅうは言ったもん。何でも言ってって。だから私の言う事聞いてよ。ねぇ、りゅう、お願い?」
まるで催眠をかけられているかのように頭がボーっとする。
きっと今まで比奈のお願いを喜んで聞いてきたからだろう。
俺は頷かないではいられなかった。
「わかった」
「ふふっ、それでこそ私のりゅうだよね♡」
きっと俺もおかしかった。
こんな比奈の違和感を見て見ぬふりしたのだから。
ある夜。
行為の後、とんでもないこと気が付いた。
「……ゴム、穴空いてる」
マズイ。
このままだと比奈が妊娠してしまうかもしれない。
すぐに対処しようとスマホを手に取ると比奈に腕を掴まれた。
「意味ないよ?」
「は? 何言って」
「だって、今までずっとそうだったもん」
比奈の言葉が理解できない。
固まっていると比奈が小悪魔的な笑みを浮かべた。
「ずっとゴムに穴、空いてたよ?」
「……は?」
「だから、今対処しても仕方がないよ」
「お前、何して……」
「ねぇりゅう。私たち、結婚しようよ」
思考が停止する。
おまけに視界が歪んでいき、不思議な感覚に体が包まれていった。
「何でも私の言う事聞いてくれるんだもんね。だからりゅうは私と結婚してくれるよね?」
比奈の言葉が脳にダイレクトに響く。
まるでそれが正しいかのような、そんな気分にさせられた。
「子供がたくさんいる、楽しい家族になろうねっ♡」
俺は当然、首を縦に振った。
完
人見知りで控えめな幼馴染に「何でも言って?」と要求に答え続けたらいつの間にかエスカレートして結婚しなきゃいけなくなった 本町かまくら @mutukiiiti14
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