第5話 おじさんは自分への指摘に耳が痛い

 リア達がダンジョン【黒犬のあなぐら】の入り口に着くと、そこではくつろぐゾワカと【紫炎の刃】が。


「よーお、随分トロトロしてたみたいだなあ? ダメだぜ、冒険者はスピードが命。そんなんじゃ英雄になんてなれねえぞ」

「……あんた達も、随分のんびりしてるようですけど?」


 リアが眉をひそめながら問いかけると、男たちはにやにやと笑い、


「まあ、オレ達は、かわいい後輩に先に行かせてやろうと思ってな。のんびりしてたのよ。ほら、先に行けよ。まあ、心配すんな。邪魔なんてするつもりはねえよ。ただ、そのおっさんはどうかわからねえけどな」


 ゾワカは脇の下をがりがり掻きながら、ガナーシャを見る。


「オレ達のパーティーに居た時も何にも役に立たなかったおっさんだ。そんな足手まといに足を引っ張られないように気を付けるんだな。おっさんもちゃんと頑張れよ」

「はは……耳が痛いね……」


 ガナーシャが、えへらと笑い赤茶のもじゃもじゃ髪を掻くと、ゾワカは鼻を鳴らす。


「くっくっく、まあ、精々頑張んな」

「言われなくても頑張るわ、ぼけぇえ」


 ゾワカの態度に苛立ちを隠せないケンが吐き捨てるように言うと、ガナーシャがそれを諫める。


「まあまあ、ケン、先に行っていいんだからさ、さっさと行こう」

「いや、待て。おい、ケン。英雄候補とはいえ、冒険者の先輩への態度がなってねえんじゃねえか?」


 ケンの態度に笑顔を失ったゾワカがケンに詰め寄り襟首を掴む。

 が、ケンもまたゾワカの服の襟首を掴み、そして、自分よりも大きなゾワカの身体を持ち上げる。


「な……! こ、こいつ……!」

「いいか、俺は、俺の師匠みてえな、そんけー出来る人間はちゃんとそんけーする。だけどな、てめえみたいな弱い者いじめ野郎は殴りたくてしょうがねえんだ……!」

「ケン! 大丈夫だよ、ね、大丈夫」


 ガナーシャが、ケンをぺちぺち叩きながらそう言うとケンははっとしたような表情を浮かべ、


「殴られねえだけでもありがてえと思ってくだせえよ、せんぱい……!」


 ゾワカをゆっくりと下ろし、【黒犬のあなぐら】へと向かい始める。

 リア達もそれに続く。ゾワカは地面にしりもちをつき茫然と見送るだけ。


「は、はあ? あれが、英雄候補の力? あの年であんな力、ばけもんじゃねえか……」


 ゾワカの言葉にぴくりと肩が反応したものの、そのままケンは歩いていく。

 すると、横に気配を感じ、ふとそちらを見る。


「うお! おっさん!」


 ガナーシャが横から見ていたことにケンは声を出して驚く。

 そんな驚いているケンにガナーシャは、


「いやあ、ケン。ごめんね、僕の為に怒ってくれて」

「はあ!? いや、ぼくっ……木刀でなぐるぞ、こらああ! いいか、おっさん! もっと気合入れるんだよ! あんなヤツに言われたい放題言われてんじゃねえよ! ったくよお!」


 そう言いながらケンはずんずんと前へと進んでいく。

 ガナーシャは、そんなケンをにこにこ笑顔で見つめていた。

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