私とあなたと
朝川はやと
私とあなたと
朝、目が覚めた。
電車に間に合うギリギリまで、そのままベッドで横になっていた。
飛び起きて、出社のための最低限の準備をして家を出た。
マスクの着用が当たり前になってから、ちょっとだけメイクがラクになった。
会社に行きたくない。
でも、行くしかない。
陽射しが眩しい。ポケットの通勤定期を確認しながら歩く。
私の中には、感情のスイッチがある。感情を消すことができるスイッチ。
会社の入り口を通る瞬間、自動でスイッチが押される。夜になって会社を出るその瞬間まで、心を無くしたロボットが私の代わりに働く。やがて時間は過ぎ去る。何が起こっても、何を言われても、時間は進んでいく。
私の毎日に、意味はあるのだろうか。
自宅から駅までの1本道の途中に、お庭が素敵な一軒家がある。
黄色い花が晴天に映える。おそらくマリーゴールド。
目隠しの緑樹の周りを、1羽の鳥が低く飛んでいる。
灰色と茶色が混ざった地味な鳩。
木の枝をくわえている。きっと巣作りをしているのだ。
もうじき6月。雨の日も多くなってきた。
やがて台風もやってくるだろう。
せっかく花を咲かせても、せっかく住処をつくっても、風と雨でダメになっちゃうよ。
花に鳥に言葉が通じるなら、そう教えてあげたい。
けれど、花は色づく。鳥は羽ばたき、枝を運ぶ。私は駅へと向かう。
私と小鳥と…。有名な詩を思い出す。
私と鳩とマリーゴールド。
それぞれの1日がはじまる。
私とあなたと 朝川はやと @asakawa2023
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