第23話 堂々同行同道同伴堂々巡り


 照り付ける太陽がやんわりとした暖かさを地上へと落とす中、ガタゴトと隆起する地面に揺れる馬車が一台走っていた。


 そんな馬車の後部から足を投げ出して外を見る俺は、ぼんやりとした頭で無機質に外の景色を眺めていた。


 というのも――


「姫ぇ、俺の隣が空いてるぜぇ」

「ねぇ、ナズベリー。もう一回ブルドラを彫像にしてくれないかしら? ルードに喧嘩売らなかったとはいえ、やっぱりうざいわこいつ」

「そうですね。そうしたいところはやまやまですし、この距離なら確実に固められますが、馬車の中では他の物や人も巻き込んでしまいかねないので……」

「うぉーい! いや、この際お堅いナズベリーでもかまわなぇね。誰か俺の寒空の下に晒されたあんよを温めてくれよー!」

「よし、行きなさいルード」

「そうですね。こじれた仲を取り持つにはスキンシップが一番と聞きますし、ここはルードさんに譲りましょう」

「いきなりこっちにキラーパス放ってくるんじゃねぇよ!?」

「お、来るかルード。いいぜ、死ぬほど抱きしめてやるよ」

「それ言ったら俺殺される奴!」

「あなた、死んでも死なないじゃない……」


 といのも、どういうわけかブルドラとナズベリーの二人が、俺たちの――コルウェットの帰郷に付いてきていたからだ。


 そして、この旅路に同道するのはこの二人だけではなかった。


「あ、あの」

「どうしたマリア?」

「ソロモンバイブルズでも、お三方はこんな感じだったんですか?」

「あー、いや? 多分もっと騒がしかったんじゃないかな。ゲルの奴が俺に無茶ぶりをしてきただろうし、リムの奴だって騒がしい方が好きだからって言ってもっと話をややこしくしたりな。んでもって最後にエルモルトからお叱りを受けるってのがいつもの流れだな。基本的に、上手いこと立ち回るゲルと外から見てるコユキは説教受けてなかったけど」

「そ、そうなんですか……」


 ついでに、積極的にそういう会話に混ざろうとしなかった俺も、と俺は付け足そうとして、口をつぐんだ。


 さて、そんなわけで同行者三人目こそが、ギルドの受付嬢のマリアであった。どうして彼女が? 更には、ブルドラとナズベリーの二人が、なぜコルウェットの帰郷に付いてきているのか?


 それは、ナズベリーの疑いがあったからだ。


 あれほど会話して信頼してもらったというのに、どうやらナズベリーはまだまだ俺たちの――厳密に言えば俺を疑っているらしい。


 まあ、あれだけ何にもできなかった人間が、突如として真一級の実力者を圧倒する力を身に着けていたら、否が応でも疑いをかける。


 特に彼女は、実力はともかくとして、高い拘束能力を持つスキル〈金鉱脈ハンド・オブ・ミダス〉を持っているし、その上で現低国ヴィネの攻略者として、低国から出てくる危険によって引き起こされる悲劇を未然に防がなければならない責任がある(と、彼女は考えている)。


 だからこそ、コルウェットを信じたところで、コルウェットを俺が騙し利用している可能性を考慮こうりょした上で、俺たちが二人だけで行動するのは危険だと言い、この旅路で目的を達成するまで同行することに。


 そしてブルドラは――


『ひ、姫ぇ!? うぉおおおお!! あ、会いたかったんだぜぇ~!!!!』


 と、旅の途中でそれなりにコーサーから離れたところで〈金鉱脈〉を解除したところ、お面を外したコルウェットの存在に気づき、号泣しながら彼女に飛び掛かったところで、俺とナズベリーによって組み伏せられた。


 それから、


『姫が行くなら俺もついてくぜぇ! つーか、ちょうどフールブールは休息期間だぁ。今ここで帰ったところで、あと二週間は休みでやることがないし、付いて言ってもいいよなぁ?』


 と言って、彼が同行することになった。


 とりあえず、その旨をフールブールのパーティーメンバーたちに伝えに一回街に戻ったところで、流石に未然に防ぐことができたとはいえ、衝動で大量殺人鬼になりかけたブルドラを放置しておくことはできないとしたギルドが、今回の騒ぎの原因でもあるマリアを俺たちの旅路に派遣したわけだ。


 マリアの膝の上には、伝書用の鳩が入れられた鳥かごが抱えられており、何かあったとしても彼女が鳩を飛ばせばギルドに伝わる様になっている。


 そのうえ、もし鳩が殺されたとしても、鳩の命が失われたことを魔道具がギルドに教えてくれるので、異変だけは伝わる様になっている。


 そんなわけで、ナズベリーは俺を疑ってるし、ギルドはブルドラを見張ってるし、コルウェットはブルドラを嫌ってるし、ブルドラは俺に殺意を向けてくるし、と何とも言い難いパーティーが完成してしまったのだ。


 ただし、目的は変わらずコルウェットの帰郷である。


 帰郷と言っても、場所は流砂の国の中。砂漠地帯が広がる西南側ではなく東方に続く山脈への道の途中にある貿易都市こそが目的地となっている。


 そこに、彼女の母親が終生を過ごした邸宅があるのだとか。


 もちろん、父親を早くに失っている彼女が不在だった今、その邸宅には誰も居ない――というわけではなく、何人かの使用人が、今も屋敷の手入れをしているのだとか(コルウェットが行方不明になる前の話だが)。なので、半年経った今、せめて使用人が仕事を辞めてしまっていたとしても、お世話になった身としては生存報告ぐらいはしておきたかったのだとか。


 それと、墓参りも。


「しかし、豪勢なパーティーになったもんだな」


 世界でも著名なソロモンバイブルズのメンバーが、この馬車には四人も揃っている。俺はともかくとしても(劣っているつもりはないが)、13層に安全地帯セーフルームの作成に携わった三人の真一級の実力者がいる今、たいていの障害は苦も無く乗り越えられるだろう。


 ただ――


「なーんか、不安なんだよなぁ」


 俺はバラムのように未来を見ることができるわけではない。ないのだが――漫然とした不安を俺は未来に予感していた。


 空に浮かぶ太陽にそう書いてあったわけでもなければ、目的地となる貿易都市の凶報を聞いたわけでもない。


 それでも、俺は――


「なんも起こらず、平穏無事に帰れればいいんだけどなぁ」


 俺は、嫌な予感を覚えていた。

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