第30話 報われたかったんだ
「俺はお前の
傷だらけのコルウェットの無事を確かめてから、俺は改めて
「いや、関係ないか」
このダンジョンと同じ名前を持ち、人間に
恐ろしいほどの魔力が
「……ねぇ」
そんな中、俺の腕に
「わかってないくせに、知ってるなんて言わないでよ……」
コルウェットらしくない、あまりにも
きっと、それだけ彼女の心は、あの魔物を前にして壊れかけてしまったのだろう。だからこそ俺は、できるだけ優しく声をかけた。
「知ってるさ。
「え……?」
俺は知っている。天賦スキルは望んで選ぶことはできないことを。
「それなりに
かつての記憶。かつての経験。ああ、そうだ。
俺も、
天賦スキルは一万人に一人といわれる
そんな世界に生まれ落ちた、天賦スキル四つ持ちが俺だった。
期待されないわけがない。しかも、所有するスキルのすべてが〈不明〉なる闇のヴェールに
千年に一人の
だから俺は家を出ていった。その先で冒険者となり、現在ソロモンバイブルズのリーダーであるエルモルトにその隠されたスキルを見出されて、そしてまた捨てられた。
俺は二度期待されて、二度捨てられている。
だからわかるのだ。わかってしまうのだ。
期待という重荷が、どれほどその身を苦しめるのか。そして、その重荷を背負っているとき――ハリネズミのように周りを傷つけてしまうことを。
「頑張ってるのにって言っちまうんだ。頑張ってるのに認められない。頑張っているのに功績を残せない。そうやって、そう言って、頑張りが足りないからって考えを
人の努力を
それに、俺を追い抜かして言った奴が俺よりも努力したってだけならまだいいんだよな。
だってさ、俺の後ろであぐらをかいてる
「そんでもって笑うんだよ。そいつだけじゃなくて、追い抜かしもしないのに、努力もしてないくせに座り込んでるやつらがさ、人差し指を立てて俺のことを笑うんだ。『努力が足りないんだよ』とか、『そんなに頑張ってバカみたいだな』って」
人生をかけて
そりゃそうだよな。コルウェットだって、あんまりにも重い荷物を背負わされて、血の
「だけど、一人で
この世界は、努力が
だけど、だからといって、その努力を否定していいなんて理由は無い。
「……ルード……私、頑張った」
「ああ、そうだな」
「ほんとは遊びたかった。窓の外に
「誰だってそうだよ。あたりまえだ」
「だけど、お母様が好きだから。お母様の期待に応えたかったから……私は、偉大なお父様とお母様の子供だから、頑張ったの」
「ああ、そうだな。だからお前は、ここのダンジョンの階層ボスを倒せたし、13層の安全地帯を作るきっかけになれたんだ」
「でも、誰も認めてくれなくて……誰も、私を見てくれない。私の後ろにある、お金と地位ばっかりの男が、私の歩いてきた道を踏みにじって……私は、私は……」
「……………………」
「私は、
俺の腕の中にいる彼女は、俺の知らない少女であった。
いつも自信満々に肩で風を切って、何でもかんでも一人で解決してしまうような勝ち気な態度はどこにもなく、そこに居るのはただ一人の女の子だった。
そんな彼女が流す涙を、悔しいと、報われたかったとこぼすを
「私は――」
「安心しろ、コルウェット。俺はここにいるし、俺はしっかりとお前を見てるから。『
「……ありがとう、今まで、ごめんなさい……」
最後の最後で俺の胸に顔を寄せて、涙交じりの声で感謝を告げた彼女は、その意識を深い闇中へと落としてしまった。
ただ眠っただけだ。呼吸を聞く限り、危険な状態というわけでもなさそうだ。
だから俺は、彼女をゆっくりと降ろした。近くの瓦礫の、ちょうど眠れそうな場所に、ゆっくりと。
そして俺は向き合うのだ。
「待っててくれてありがとよ。もしかして、お前って話が通じる奴だったりするのか?」
『………………』
未だ沈黙する獅子面の魔物は、空気の読める奴だったようだ。
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