ダンジョンでスローライフ!? ~パーティから追放されるどころか最高難易度ダンジョンに取り残されてしまった俺ですが、世界の裏技を見つけて好き勝手に過ごさせていただきたいと思います!~
熊
序章『空席の玉座と炎の花』
第1話 どこかで間違えてしまった物語
無能と言われて三千年――いや、実際は三千年どころか三年ぐらいしか経ってないわけだけどさ。ああでも、子供のころを換算すれば十年以上は経ってるんじゃないかな? 多分。
まあどっちにしても俺が無能であることには変わりないし、無能でないことは保証されない。
そんなわけで、こうなることは決まりきった結末だったのかもしれない。
「君は私たちのパーティーにはふさわしくない」
妙な笑顔を浮かべた男が、俺にそう言った。彼が俺の所属する――いや、していた冒険者パーティ『ソロモンバイブルズ』がリーダー、エルモルト・ナーガンだ。
人類未踏の地を開拓することを生業とした冒険者。そんな冒険者たちで作られたパーティのリーダーが直々に、俺に無用の無能という烙印を押してきやがったのが、俺の追放劇の始まりだ。
いやはや、出会った頃から
「結局芽、開かなかったな~……先輩♡ ……ケッケッケ」
さて、そんな正面に座るエルモルトを見て左側に、壁を背にして腕を組んでこちらを笑うのは、ゲルアーニ・メナントスという少年だ。ゲルという愛称で呼ばれる彼は、俺の元後輩に当たる冒険者。言葉尻に♡の文字が付いてる気がするが、あれは玩具として俺を見る下品な印。好意ではなく好奇で見る眼差しだ。
ただ、ゲルアーニはまだましな方。こうしてパーティーメンバー七人(除隊を強要された俺を除いて)が揃う天幕の下で、これまでの苦楽を共にしてきたメンバー一人が追放されようとしているのに、誰も声を掛けようとしないのだ。
まったくもって薄情
まあ、理解できなくはないけどな。
この世界にはスキルがある。スキルとは素質。スキルとは才能。スキルとは実力。スキルとは能力。生まれてからこれまでの記録であり、生まれてからこの先を決める当人の運命そのもの。
ただ、俺のそれは全くと言っていいほど――『不明』だった。
無能というのも、何もできないから無能というわけではない。何も持たないから無能なのだ。
●〈スキル開示〉
・名:ルード・ヴィヒテン・S
・保有ジョブ
〈
・保有スキル
―〈不明〉
―〈不明〉
―〈不明〉
―〈不明〉
改めて確認しても、文句のつけようもないほど完璧なステータスだとは思わないか? スキルを開示しているというのに、保有スキルの一切が非開示で、更にはその人間の人生を決めると言っても過言ではないジョブですら、〈
だから、俺は無能と呼ばれていた。そして今、無能として切り捨てられようとしている。
胡散臭い笑みのエルモルトが俺の才能を買って、パーティーメンバーに招き入れたのが三年前。駆け出しの(そう言えば聞こえはいいが)
そして、その歩みは未だ止まらず、世界の果てまで続くことだろう。俺という、無能を
「除名届はギルドへと既に提出している……いや、死亡届、かな。君の活躍の
なんとも素早いお手前で。どうやら、俺は地上に帰ることすら許されないらしい。
「さようならルード。さようなら無能者。次に会うときは、そのジョブだけでも明らかになっているといいね」
「だな。次に会う時があれば、の話だけど」
別れる直前。最後の最後まで、エルモルトの表情は変わらなかった。相変わらず胡散臭い顔をしていた。
そんなエルモルトに背を向けて、俺が天幕から荷物をまとめて出ていこうとしたその時――衝撃によって俺は無理やり外へと弾き飛ばされる。
何事か、とは思わない。痛みを訴えるわき腹を抑えながら立ち上がってみれば、天幕の中から女の声が聞こえたから。
「なに私たちソロモンバイブルズの荷物に手を付けようとしているのかしら、盗人さん。ここはソロモンバイブルズが自らの手で勝ち取った
女の名はコルウェット・ムジナ。所謂、天才と呼ばれる冒険者だ。彼女の炎を前にすれば、溶岩の中に住むドラゴンすらも塵と変わらない姿にされてしまうほどの、そんな恐ろしい魔法を使う怪物だ。
俺なんかとは、比べようもないほどの有能だ。
そして、彼女は俺を目の敵にしている。理由は知らないし、知りたくもないが。まあ、どっちにしろ追放されるという話がエルモルトから切り出された時点で、こうなることはわかっていた。だから俺は――
「風邪引くなよ、コルウェット」
そう言って、天幕から――巨大ダンジョン『低国』唯一の安全地帯から出ていったのだった。
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