集会に遅刻しそうになった話

多田七究

新人冒険者の受難

 呪物じゅぶつ。それは、解呪かいじゅすれば一獲千金を狙えるマジック・アイテム。

 解呪かいじゅすることで魔法の力は呪物じゅぶつからは少々下がるものの、マイナス要素を消して使うことができる。このことから、冒険者ぼうけんしゃから重宝ちょうほうされているのがマジック・アイテム。

 どうやって作るのか、だれが作ったのかなど、呪物じゅぶつには謎が多い。わかるのは、古代の秘宝として手に入ることが多いという事実。


 そんな一獲千金いっかくせんきんを夢見て、冒険者ぼうけんしゃになったひとりの男がいた。

「ナマタ、このあとヒマか?」

「いや、訓練があるんだ。またにしてくれ」

 ナマタと呼ばれた男は、剣を振り始めた。

 呼びかけた二人組のうちのひとりが、肩をすくめて唇をとがらせる。

「それじゃ、またな」

「わるいな、スイカライ。ウークラ」

 ひたすらに、ただがむしゃらに剣をふるうナマタ。

 二人組のうちのもうひとりが、スイカライと呼ばれた男をなだめていた。


 ナマタはチームに所属している。

 名は、案山子かかし

「合同作戦が発動する。野郎ども、気合い入れてくぜ!」

 その所属チームのリーダー、トッピンから告げられた、他チームとの合同作戦。

 トッピンはかなりのやり手。剣と盾を装備したスタンダードなスタイルにもかかわらず、数々の実績をあげている。ナマタの憧れの人物。

 組むひとつめのチームは、しろきば。リーダーのゴンゴルはドラゴンと切り結んだと言われる、凄腕すごうで冒険者ぼうけんしゃ

 組むもうひとつのチームは、ブルーエデン。リーダーのミテンは、女だてらにキマイラを倒したといわれる、やはりうての冒険者ぼうけんしゃ

 ナマタの胸は高鳴っていた。


 集合の1時間前。

 ナマタは、店で食事をとっていた。料金は前払い。スプーンを持つ手が震えている。これぞ、武者震むしゃぶるい。

「落ち着け。おれ。いつもどおりでいいんだ」

 新人冒険者しんじんぼうけんしゃは、焦りを隠そうと必死。だが、うまくいっていない。

 完食後、おもむろに、トイレに向かった。

 途中で店員とすれ違う。目立たない、ごく普通の店員に見えた。


「ふぅ」

 一息ついて個室から出ようとした男は、異変に気づいた。扉が開かない。

 それだけではなく、身体からだの自由がきかない。黒いかげのようなものがまとわりついている。大声を出すこともできなかった。

 トイレに閉じ込められたナマタ。

 パニックになって、正常な行動ができない。ナマタは、しばらくもがいていた。

「落ち着け。リーダーなら、こんなときどうする」

 トイレの壁際に、黒い鎧の腕部分のようなものがある。黒いかげは、そこから出ていた。ナマタがはっとする。

 呪物じゅぶつが置いてあって、それに捕まってしまった。ようやく気づけた。

「誰か。スイカライ。ウークラ」

 助けを呼んでも、チームの誰も来ない。

 ここまでか。ナマタは、覚悟を決めていた。

 そのとき、突然トイレのドアが開いた。

「これは、よくないですね」

「店員さん」

「ナギマスターという者です。よろしくお願いします」

 店員のナギマスターが助けに来てくれたのだ。慣れた手つきで、ちゅうに文字を書くナギマスター。

 黒い鎧の腕部分だけに見える呪物じゅぶつは、解呪かいじゅされた。

 ナマタは、事なきを得た。


「ぼくは、普通の店員ですよ」

 そう言うナギマスターが、ナマタには輝いて見えた。

 どんな凄腕冒険者すごうでぼうけんしゃよりも。

「この呪物じゅぶつ、いや、マジック・アイテムはどうしますか?」

「忘れものですからね。ぼくの判断では決められません。店長に相談します」

 ナマタが大声を出す。

「ええっ? マスターじゃないんですか?」

「ただの名前ですよ。よく言われます。フルネームは、ナギマスター・ワールドアザーといいます」

 ほおに赤みが差しているナマタが、はっとする。時間を気にするそぶりを見せ、足早に店から出ていった。


「お前、どこ行ってたんだよ」

「遅れるかと思ったぞ」

「それは、おれのセリフだ」

 ナマタは、なんとか集会の時間に間に合った。

「そこ、私語はつつしめ」

「はい。ごめんなさい」

 いち早くあやまったのは、ウークラ。スイカライとナマタは、謝罪が遅れたことを悔やんでいるような様子だった。

「いいか。今度は大物を狙う。お前ら、一瞬たりとも気を抜くなよ!」

「はいっ!」

 しかし、さきほどの事件で気分が高揚こうようしている。ナマタには、話の内容が頭に入ってこなかった。

 浮ついているナマタ。

 それを、かげからナギマスターが見つめてはいなかった。普通に店で働いていた。

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集会に遅刻しそうになった話 多田七究 @tada79

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