【第三話】━━ そもそも意思疎通が難しい。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 しばらく天使たちの攻撃を受けていると、痛くはないんだけどなんだかんだでムカムカしてくる。

 こっちは棒立ちしているだけなのに、天使たちは飽きることなく攻撃をいつまでたってもやめないから。

 ただここで天使たちを一匹…… いや、一人? 天使の単位何て知らないよ。

 まあ、一人でいいや。一人でも殺しちゃったら、それこそ取り返しがつかないよね?

 だとしてもどうしようか。

 とりあえず、一匹…… いや、一人か。一人だけ捕獲してコンタクトを試みよう。

 そうと決まればとりあえず捕獲。幸い天使たちは私から見れば、遅い動きで捕まえるのは簡単そうだ。

 一番動かすのに慣れた左右の真ん中の手で優しく一匹を…… いや、一人を手で包み込む。

 よし、簡単に捕獲成功。

 手の中で爆発起きてるし、生きていることは間違いがない。

 あとはとりあえず安全な場所に移動だ。

 あまり深く考えずに、天使たちが一番いない方向に突き進む。どけどけ!邪神様のお通りだ!

 意識しなければ普通に進める。進める! 進めるんだ!!

 大地をえぐり、森をすべてなぎ倒しながら突き進む。

 まだぎこちないヘビの歩みだけど、さすがの巨体なので、天使たちは追い付けない。

 どれくらい進んだかわからないが、天使たちを引き離したところで、大事に閉じておいた手を開く。

 真ん中の左手にぐったりとした天使が寝そべっている。多分手の中で爆発起きてたから、自爆したんだと思う。ちょっとかわいい。

 その天使に注力してみる。

 羽が生え頭に輪っかを付けた典型的な天使だ。

 あと美形だ。ものすごい美形で何より愛らしく見た目もかわいい。ふわっふわの金色の髪の毛に目鼻立ちの整った顔。

 どこまでも白い肌に大きな胸。それと多分、アレも大きい。

 服で隠れて入るけど、私の邪神アイはそれすらも見抜く。

 天使って雌雄同体ってホントなのね。でもここは異世界だから、そもそもが…… と思っていると、天使がよろよろと立ち上がった。

 私に向かい何かを言っているんだけど声が小さくて全然聞き取れない。

 でも、注力すれば視界も拡大できたんだから、その小さな声を聞きとることくらい……

 そう思って耳を澄ます。私の予想通り、天使の声が少しずつ大きくはなっていくんだけど、今度は言葉が理解できない。

 んー、流石は異世界。使っている言葉も違う。

 だけど、私は今や邪神。邪神と言えど神。できないことはないはずだ。

 異世界語を解読することだってできるはずだ。


 理解しろ理解しろ理解できろ!! 


 そう強く思うと、なんだかんだで天使の言っていることが理解できるようになってきた。

「くっ、この邪神め! 私をどうするつもりだ!! 殺すなら一思いに殺すがいい!!」

 あっ、くっころだ!

 異世界語を初めて理解できて聞く言葉が、くっころかよ!

 でも、やっぱりこの天使かわいいな。天使ちゃんと心の中で勝手に呼ぼう。

 とりあえず、声を出そうとするが声が出ない。そもそもこの邪神の体に口があるのかどうかもわからない。

 なので、首を横に振ってみた。

 振った勢いで突風が起き、天使ちゃんは吹き飛んだ。

 慌てて優しくキャッチする。

 あ、危ない。この邪神、首を振るだけでも破壊的だ!

 天使ちゃんを見ると目を回して伸びている。

 また起きるまで待つしかない。

 天使ちゃんを左手に乗っけてただじっと待つ。

 だって下手に動いたら、触れるものすべてを破壊してしまう。

 ただただじっと待つしかない。

 天使ちゃんが目を覚ましたのは日が暮れてたからだ。

 目を覚ました天使ちゃんは自分がまだ殺されてないことに困惑している。

「な、なにが望みだ! 私をどうするつもりだ!」

 そんなことを叫んでいる。

 首を振るだけで恐ろしい突風が起きるほどの巨体だ。

 天使ちゃんを左手に乗せ、ゆっくりと右手を天使ちゃんの見える位置に持ってくる。

 そして、否定的なら指一本立てる。肯定的なら指を二本立てる。ということを永遠と繰り返した。

 次第に天使ちゃんもそれに気づいたらしく意思疎通が始まる。

「と、とりあえず私を殺すつもりはないんだな?」

 天使ちゃんのその問いに指を二本立てる。

「なにが目的だ? と聞いても答えようがないのか…… 何か私に用があるんだな?」

 更に指を二本立てる。そうそう用があるの。というか、戦う意志はないのよ。

「邪神が神の御使いである私のなんの用があるというのだ!」

 うーん、その問いにはどうやって答えたらいいんだろう?

 次の質問を待つ。その間、天使ちゃんが飛んで逃げ出そうとしたら、他の手を使ってそれを阻止する。

「逃がすつもりもないということか!」

 指を二本立てる。


 それを永遠と繰り返していく。

 気が付くと朝日が昇っていた。




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