第43話 覚悟を決めてみた

 翌日、俺は宿で悩み込んでいた。

 聖騎士が大々的に告知をして、七日後に決闘することになったのである。

 街の冒険者には既に知れ渡っており、もはや無視できない事態となってしまった。


「参ったな。どうしたものか……」


 俺は腕組みをして考える。

 聖騎士はよほどビビを騎士にしたいようだ。

 彼女の力量と可能性に惚れ込んだらしい。

 そして、ビビと奴隷契約を交わす俺を憎悪している。

 目的とは別に叩きのめすつもりに違いなかった。


 俺がこうして宿屋にいるのは、街中で聖騎士と鉢合わせになりたくないからだ。

 現在、あの男は死霊術師を倒した冒険者を探している。

 迂闊に外出すると出会い頭に襲われそうだ。

 さすがにそれはないと思いたいが、不用意な真似は控えるべきだろう。


 同じ部屋にいるビビは俺に提案する。


「一緒に逃げよう。決闘は向こうが勝手に決めたことなんだから」


「しかし、あいつは執念深そうだ。街から逃げたとしても、きっと追いかけてくるぞ。聖騎士の権力を使えば、俺達の行方を辿るのも難しくないはずだ」


 聖騎士は国が誇る英雄の一人だ。

 現役で活躍する者の中では最高峰の実力を有する。

 主に魔物討伐が任務らしく、死霊術師も標的に入っていたのだろう。

 国からの信頼は厚く、下手な貴族よりも政治的な力を持っている。

 したがって約束を放り出して姿を消すのは得策ではない。


「じゃあ決闘で倒す?」


「無理だろ。相手は英雄だぞ。俺では話にならない」


「ご主人なら勝てるよ、きっと」


「買い被りだ」


 俺はビビの言葉を受け流す。

 さすがにそれは過大評価だった。

 我ながらただの冒険者で、将来性の薄い凡人である。

 最近は少しばかり魔術が使えるようになったが、何かが劇的に変わったわけではない。

 根本的には一般的な冒険者のままだった。

 だから英雄を凌駕する戦いを求められても困る。


 だが、ここでどうにかしないとビビの身にも危険が及びかねない。

 情けないことを言っている場合ではなかった。

 俺は不安な面持ちのビビを一瞥し、客観的な事実だけを抜き取りながら思考の海に没する。


(とても勝てる気がしないが、決闘で勝利しないと解決しなければならない。真っ向からの勝負では絶対に負ける。しかし、堂々と勝利しなければ聖騎士も納得しないだろう。難儀な話だな)


 かなり厳しい状況ではあるものの、打つ手がないわけではなかった。

 どんな困難でも活路は切り開けるものだ。

 俺は過去の経験からそれを確信していた。

 聖騎士が完全無欠ならその限りでもなかったかもしれないが、あの男にも弱点は存在する。

 手段を選ばずに対抗することで、決闘で勝利する可能性は生まれる。


「ふむ……」


「どうしたの?」


「聖騎士に勝つ方法を考えていた。買い被りだと言ったが、ここで身を引くわけにはいかないんだ」


 俺が笑ってそう言うと、ビビが正面から抱き付いてきた。

 彼女は俺の胸に顔を埋めて言う。


「ありがとう。迷惑をかけてごめんね」


「気にしないでくれ」


 俺はビビの頭を撫でつつ、彼女と顔を合わせた。

 そして宣言する。


「決闘に向けて準備をするぞ。聖騎士は死霊術師の討伐者を探している。格下である俺との戦いに備える暇はないだろう。その隙を突く」


「いいね。手伝うよ」


「ああ、助かる。全力で勝ちに行こうか」


「うん」


 話がまとまったその時、部屋の扉がノックされた。

 返事をする前に扉が開く。


「どうもっす。また面白いことに巻き込まれてますねぇ」


 現れたのは旅装束のギルド職員だった。

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