第39話 戦利品の鑑定を依頼してみた

 翌日、俺達はギルドの鑑定術師のもとへ向かった。

 そこで黒い刃の短剣を調べてもらう。

 使うにしても売るにしても、その正体を明らかにしないといけない。

 俺から短剣を受け取った鑑定術師は、興味深そうな目付きで調べ始める。


「また面白い武器やなぁ。こんなん普通は手に入らんで? よくもまあ、見つけたもんやわ」


 独特の口調のせいで説教されているような気分に陥るが、それは俺の錯覚である。

 鑑定術師はいつもこんな喋り方をするのだ。

 語気の強さで周りから怖がられているのが悩みだと愚痴られたことがある。

 悩むくらいなら喋り方を変えればいいと思うのだが、そう簡単にはいかないのだろう。


 過去の会話を思い返していると、鑑定術師が短剣を返してきた。

 受け取った俺は尋ねる。


「どんな性能か分かったのか」


「当然やろ。神代の道具だって一目で丸分かりなんやから」


 鑑定術師は手を振って述べる。

 さすがに神代の道具云々は冗談だろうが、彼女の能力の高さは疑いようもない。

 そうでなければギルド専属の鑑定など任せられないはずである。

 一つ咳払いをした後、鑑定術師は短剣を指差して説明する。


「この短剣はな、刺した相手の魔力を苦手属性に変換する力を持っとる」


「苦手属性?」


「相性が悪い属性ってことや。適性が狂うから魔術は使いにくくなるし、種族によっては致命的やろうな……アンデッドなんかは体内で光属性が増えるわけやから、一発で死ぬと思うで」


 そこで鑑定術師が意味深な笑みを見せる。

 こちらを試すような眼差しだった。

 なんとなく意味を察した俺は彼女に訊く。


「……知っているのか」


「どっかの冒険者が死霊術師を倒したって噂は聞いたなぁ。立派な功績やのに匿名希望って時点で怪しいし、そこでこんな短剣を持ってくる奴がいたら確定やろ」


 頬杖をつく鑑定術師が断言した。

 どうやら俺が死霊術師を倒したのだと確信しているらしい。

 下手な言い訳をしたところで納得しないだろう。

 俺が黙り込んでいると、鑑定術師が微笑んだ。


「まあ、誰にも話さんから安心しいや」


「すまない、助かる」


 その後、死霊術師の遺品も鑑定してもらった。

 古びた黒いローブには、気配遮断と日光を防ぐ効果があった。

 さらには魔力の回復速度を速める作用もあるという。

 便利な効果が揃っているので、冒険者として活動する際は欠かさず着用しようと思う。


 杖は闇属性の触媒だった。

 攻撃魔術の威力を増加させて、闇魔術の持続時間を延長するそうだ。

 杖の使用で片手が塞がる上、戦闘中に闇魔術は多用しない。

 死霊術師ほど重宝しないのは間違いないが、売ってしまうのももったいない気がする。

 一旦、扱いは保留にしておく。


 鞄には数種の魔術薬と、呪術用の道具が入っていた。

 いずれも局所的に使えそうなのでありがたく保管することにした。


 鑑定料はそれなりにかかったものの、総じて有用な結果だった。

 命懸けの戦いをした甲斐はあったのではないだろうか。

 さっそくローブを着用する俺のかたわらで、鑑定術師はビビに話しかけていた。


「ご主人様はちゃんとしてるか? もし意地悪されたら言うんやで」


「いつも優しいよ。意地悪されたことない」


 ビビはまっすぐな目で即答する。

 それを受けて鑑定術師はしみじみと呟いた。


「ほんまにええ娘やね」


「同感だ。俺にはもったいないくらいだな」


「感謝せなあかんで。二人で活動するようになってから、色々と成功してるやろ?」


「確かに……」


 異論もなく頷いていると、鑑定術師に背中を叩かれた。

 彼女は嬉しそうな顔で俺達に告げる。


「まあ、お似合いの二人やね。これからも仲良く頑張りや」


「ありがとう」


 温かい応援の言葉を受けて、俺達は部屋を出た。

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