金貨三枚で買った性奴隷が俺を溺愛している

結城からく

第1話 奴隷を買ってみた

 俺は平凡な冒険者だ。

 これと言った特技はなく、出自もただの農民である。

 貧乏暮らしが嫌で冒険者になったが、生憎と裕福な生活とは程遠い。

 少しばかり収入と自由な時間が増えたものの、一攫千金なんて夢のまた夢だ。

 才能がない俺には、生涯をかけても無理だと思う。


 しかし、英雄にならずとも幸せは掴めるはずだ。

 そう考えた俺は奴隷を買うことにした。

 冒険者として稼いできた金が地味に貯まっていたのである。

 何に使うか迷っていたが、我ながら良い判断だと思う。


 ずっと前から手頃に抱ける女が欲しかった。

 娼館通いも悪くないものの、いつでも好き勝手にできる奴隷は魅力的だろう。

 知り合いの冒険者が自慢げに話していたのも大きい。

 誰に迷惑をかけるわけでもないので、ここで贅沢をしてみようと思い立ったのであった。


 さっそく俺は奴隷商のもとを訪れる。

 恰幅の良い主人は、慇懃な態度で俺を出迎えてくれた。

 そのまま店の中へと招かれる。


「ご希望の種族はありますかな?」


「種族にこだわりはないが、できるだけ安い方がいい。金貨三枚で買える奴隷はいるか」


「ふむ、そうなりますと獣人なんてどうでしょう。他種族と比べて安価で、身体能力が高いのが長所ですぞ。冒険のお供には最適かと」


「じゃあ獣人にしよう」


 種族にこだわりはない。

 外見が人族から大きく離れていなければ問題はなかった。

 金もあまり持っていないので、偉そうに希望を言える立場でもない。


 俺は主人の案内で広々とした一室に移動する。

 そこには小さな牢屋がいくつも並んでおり、中に奴隷が収容されていた。

 首輪と手足の枷で自由を制限された奴隷達は、静かにこちらを眺めている。

 どうにも陰気な雰囲気なのは仕方ない。

 高級奴隷を望めばもっと違ったのかもしれないが、俺の懐事情では手の出しようがなかった。


 収容された獣人族の中から、俺はウサギ耳の女を選ぶ。

 理由は単純で、外見が人族に近いからだ。

 獣人族は動物的な割合にかなりの差がある。

 耳や尻尾を除くと人族と変わらない容姿の者もいれば、二足歩行する動物といった者までいる。

 俺は抱くのが目的なので人族に似た者を選んだ。


 価格はちょうど金貨三枚だった。

 たぶん主人が気を利かせて値下げしてくれたのだろう。

 ここの評判は以前から聞いていたが、想像以上に良い店である。

 また機会があれば利用したいものだ。


 俺はウサギ耳の獣人と契約魔術を結ぶ。

 これで正式に俺の奴隷となった。

 命令には決して逆らえず、自害することもできない。

 ひとまず不要となった首輪と枷を外してもらう。

 人によっては着けたままにするそうだが、俺にそういった趣味はない。

 俺は奴隷商の主人に礼を言う。


「ありがとう。助かった」


「いえいえ。またのお越しをお待ちしております」


 俺は奴隷を連れて店を出た。

 大通りを二人で歩きながら尋ねる。


「名前は?」


「ビビ」


「そうか。よろしく」


「うん」


 ウサギ耳の奴隷ことビビは無口だった。

 あまり喋ろうとせず、黙って俺の後をついてくる。

 特に嫌そうな表情はしていない。

 かと言って嬉しそうな様子でもなかった。


 当然だろう。

 奴隷として買われるということは、酷い扱いを受ける可能性があるのだ。

 不安がっても不思議ではない状況である。

 実際、俺が奴隷を買った目的を考えると何も言えない。


 借りている宿に戻った俺は、ビビに干し肉を差し出した。

 移動中、彼女の腹が小さくなったのを聞いていたのだ。


「食うか?」


「うん」


 干し肉を受け取ったビビは齧り始めた。

 ベッドに腰かけた俺はその姿をなんとなしに眺める。

 よほど空腹だったのか、硬くて塩辛い干し肉がどんどん小さくなっていく。


「美味いか」


「うん」


「取ったりしないからゆっくり食べろよ」


「分かった」


 ビビは頷きながらも干し肉を齧り続ける。

 そうして彼女はあっという間に完食してしまった。

 渡した水を飲み干したビビは、ほっと息を吐く。


 さすがに腹が膨れたのだろうか。

 足りないなら、市場で買い足さないといけない。

 まだ数日分の生活費はあるが、そろそろ貯蓄が怪しくなってきた。

 やはり奴隷で奮発した分が響いてくる。


 今後の生計について考えていると、いきなりビビが動き出した。

 彼女は俺をベッドに押し倒し、腹の上に乗ってくる。

 さらに両手を掴まれて口づけをされた。

 長い間、互いの唇が重なる。

 ようやく離れたところで俺は尋ねた。


「何だ」


「したい」


「唐突だな」


「そのために買ったんでしょ」


 ビビの頬が赤らみ、目は仄かに潤んでいた。

 彼女は髪を掻き上げると、再び口づけをしてくる。

 積極的な態度に俺は苦笑する。


「獣人は性欲が強いって本当なんだな」


「…………」


 ビビは照れ臭そうに目をそらす。

 俺はそんな彼女を抱き寄せた。

 結局、俺達は翌朝まで眠らずに愛し合った。

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